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人気のジェットコースターの為、夜でも長蛇の列があり、この待ち時間が私を恐怖で支配していく。
気付けば、私の体はまた身震いを起こしていた。
「あ、怖いですか?」
「うるさい! これは寒さのせい!」
「なるほど。寒さで手が悴むなども生理的振戦です。一説によると体を震わすことで体内の体温を高めようとする生命としての本能で……」
私は後藤くんの話を聞けない。以前、このジェットコースターに乗ったことあるけど本当に怖かった。
もう絶対嫌だと思っていたのに、また乗ることになるなんて。
「嫌なら嫌と言って良いですよ」
後藤くんは私を見て呟く。
「そんなの言ったら怒るから!」
「そんなことぐらいで怒りませんよ」
私は後藤くんの顔に冷静になる。
あ。今、彼のことばかり考えていた。目の前に今一緒に居る人がいるのに。
「協力を頼んでいるだけですから拒否していいです」
「……ごめん」
「すみません、出ます」
後藤くんは並んでいる後ろの人達に断りながら入り口に向かって行く。私の手を掴みながら。
「大丈夫ですか?」
やっとジェットコースターの敷地内から出れた。
「うん、だから離して!」
私は周りを見渡す。絶対いないと分かっているのに、確認せずにはいられなかった。
「すみません、先輩」
後藤くんは、パッと手を離す。
しかし、私の手足も声も……。
「……どうしてジェットコースターに乗ることに身震いを起こしていたのですか?」
「あれ、一回転して怖いのー!」
悔しいけど、認めることにした。
「なるほど。確かに人間には学習能力があります。一度恐怖を感じたり危険なことだと学習すると、次からは防衛反応から体が震え警鐘を鳴らします。例えば崖に立つと、足が震えて前に進めなくなるのは本能です。人間の体はよく出来てますね」
「へー、だからか……」
私は思わず納得してしまう。経験すると、難しい話も分かりやすかった。
「……こないだ彼が家で待ってくれていると話してくれた時、手足を震わせていたのは何故ですか?」
「え? だからそれは……」
「実験の結果、あの時の震えと恐怖の震えは同じだと結論付けました。だから、『好き過ぎて震える現象』は信じられません。だから先輩は……」
急に後藤くんが、私が一番言われたくないことを言おうとしてきた。
「……あるよ。会えて嬉しくて、会えなくて淋しくて、好きになっていくうちに抑えられない気持ちが出てきて、関係が深くなっていくのが嬉しくて、その都度私の心は揺れ動いて震えるの。……後藤くんは誰かを好きになったり、愛したことはないの?」
彼を好きな気持ちまで否定されそうになった私は、感情的になってそう言ってしまった。
それに対し、後藤くんは表情を変えた。
あ……。
言ってはいけないことを口走ったと気付いた時には遅かった。
「……そうですね。俺にはありません。おそらくこの先も……。だから分からないのでしょうね……」
後藤くんは、一組の親子を見ながらそう呟いた。
私はその姿に何も言えなかった。
謝る? いや、それって余計に酷いことだよね? 私、最低だ。こんなこと言わせるなんて……。
私は自己嫌悪で唇が震え、泣きそうになってしまった。
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