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「七時前ですね。食事にしましょう」
「……え? うん……」
後藤くんは話を変えてくれた。
私は結局、何も言えなかった。
話が変わって安堵したのも束の間、私の頭はまた混乱する。それは出来ない。
「あれ、食べてみたいです」
後藤くんが指差したのはよく遊園地で売られている棒状の食べ物、チュロスだった。
良かった、あれなら食べられる。
「何味が良いですか?」
「え? あ、ノーマルが良いんだけど……」
「分かりました」
後藤くんは当たり前のように聞いてくれた。
「ありがとう。あ、やっぱりこの味が良いな」
私はマスクを浮かせ、チュロスを口に運ぶ。
すると園内放送でパレードの催しがあると告知された。
私はその放送にソワソワとしてしまう。
「……先輩、パレード見たいんじゃないですか?」
「え?」
図星だった。前の時は見られず、今度来た時はと思っていた。
「行きましょう」
そう言い、連れて行ってくれた。
見たいと思っていたパレードは、雪と氷の幻想的な世界が演出されていた。最後には本当に雪が降ってきて、それによりとても美しく、そして儚かった。
「ありがとう」
「いえ、見たいなら見たいと言ってくれて良いのに」
「……でも」
私は言葉を飲み込み、黙った。
「前に彼と来たことありますよね?」
「え! 言ってたっけ?」
「そんな気がしただけです」
「そっか。うん、彼だけでなくサークルみんなで来たことがあるの」
「サークル参加していたのですか?」
「うん。サークルの勧誘が彼との出会いだったの。私、上京組でさ、大学デビューとか狙ってたんだけど失敗しちゃって、いつも一人で友達どうやって作っていいか分からなかった時に、一つ年上の彼に声をかけられたの。誘われるままサークルに入ったら友達出来た。彼のおかげなの」
「へぇ、よくあのシフトで両立出来てますね」
「あ……、辞めたからね」
「彼も?」
「うん」
「どうしてですか?」
あ、この会話は地雷だった。
そう気付いた時は遅かった。
「ほら、学費稼がないとね」
「そう……ですか」
後藤くんは、何も言わない。本当、そこらへん大人だと思う。
暗い空から降りゆく雪。もう少しで閉園時間になる。
「最後に観覧車に乗りません?」
「あ、うん」
私達は観覧車の列に並ぶ。
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