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「……ごめんね。レポートの役に立たなかったでしょう?」
「いえ、俺が理解出来ないと否定しました。だから最初から無理だったんですよ」
「……ごめん」
私達が乗るゴンドラに一組の年配の男女が居て、男性は女性に手を貸し一緒に降りている。
自然な姿からおそらく夫婦だと分かり、私は思わず見入った。
「先輩? 大丈夫ですか?」
後藤くんが、当たり前のように気にかけてくれる。
私は慌ててゴンドラに乗り込む。
席に座った私は景色ではなく、あの夫婦を見ていた。二人寄り添い、歩いていく姿に父母を重ねた。
いいな。私もあのように穏やかな結婚がしたい。いくつになっても仲が良い夫婦。父と母が理想だった。
私は果たしてあの夫婦のように、父母のように彼と添い遂げることは出来るのだろうか……?
……彼とこの先も一緒に居る?
それを考えると私の心臓はバクバクと音を鳴らし、また身震いを起こした。
「先輩……」
後藤くんはそんな私を見ていて、考えていたことを見透かした表情をしていた。
ピロロロロ、ピロロロロ。
電話が鳴り、私は慌ててスマホを見る。
その相手に驚き、私は後藤くんに断るのも忘れて電話に応対する。その内容は……。
ガタガタガタガタ。
私の体は全身に鳥肌が立ち、震えが止まらなくなった。
「先輩?」
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
彼が家に来ていた。今日は朝までゼミの飲み会だと言っていたから家を空けたのにどうして家に来たの? どうして私の都合を聞いてくれないの? どうして? どうして?
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