13人が本棚に入れています
本棚に追加
1
お正月休み。
大学1年の明日香は、帰省先のカフェで、旧友との他愛の無い話で盛り上がった後、一人残り、パソコンの画面を開いた。
「雪の思い出かぁ……」
まだそれしか書かれていない文字を見つめ、悩ましげに呟いた。
明日香には、密かな趣味がある。
小説サイトへの投稿。
人見知りの明日香は、友達といても専ら聞き役。その分、子供の頃から書くのが好きだった。
大学入学と同時に投稿を始め、短編ばかり20作品ほどを上げた。
このサイトでは、テーマが設定されたコンテストも頻繁に行われている。
今回のテーマが「雪の思い出」なのだ。
「明日香ちゃんじゃない?」
突然、目の前で男の人の呼ぶ声がした。
びっくりして顔を上げると、同い年ぐらいの男性が、窺うように明日香を見ていた。でも、誰なのか分からなくて、
「あ……はい……」
と怪訝な目を向ける。一方で、軽いざわめきのようなものも感じて、
(ん?でも、どこかで会ったような……)
思案していると、
「昌道だよ。香川昌道」
「えっ……」
思わず絶句する。
幼なじみ。しかも初恋の人だった。
幼なじみとは言っても、小学校4年の途中までの仲。明日香はそこで、隣の学区に転校してしまったから、それ以来だ。
「ここ、いい?」
彼は笑顔で訊きながら、もう明日香の向かいの席にコーヒーカップを置いて座っていた。
人懐こさは、あの頃と全然変わっていない。でも、雰囲気はかなり大人になっていた。
「よく分かったね。私だって」
「うん。さっきまで友だちと喋ってたろ?で、明日香、葵、ってお互いに呼び合ってたからさ」
「あぁ……」
(そういうことか。それなら……)
「葵もいるときに、声かけてくれればよかったのに」
「あっ、ごめん。俺、葵さんってちょっと苦手なんだよね」
「そうなの?」
「うん……」
少し分かる気がした。
葵は、良く言えばしっかり者。悪く言えば、小うるさいタイプの女子だった。
小学4年の同じクラスだった時も、アバウトな昌道くんは、葵によく叱られていたのを思い出して、クスッと笑うと、
「だから、明日香ちゃんが一人残って、ラッキーって思って」
と言って、昌道くんもクシャッと笑った。
(あぁ、この笑顔!そうなのだ。幼い頃、この人懐こい笑顔に恋をしたのだ!)
そんな事を考えていると、彼はいきなり席を立って明日香の隣の席に回り、
「何見てるの?」
パソコンを覗いてきた。慌てて隠そうとしても、後の祭り。
「雪の思い出……ASUKA?何?これ」
「もう、読まないでよ!」
ぽんと彼の肩を軽く叩いた。
10年振りに会ったのに、気を遣わずに話せる空気が戻っていた。
(今初めて出会ったら、絶対仲良くならないタイプなのに、幼馴染みってすごい!)
そう思いながら、今、小説投稿をしているのだと彼に話した。
最初のコメントを投稿しよう!