1

1/2
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

1

 お正月休み。  大学1年の明日香は、帰省先のカフェで、旧友との他愛の無い話で盛り上がった後、一人残り、パソコンの画面を開いた。 「雪の思い出かぁ……」  まだそれしか書かれていない文字を見つめ、悩ましげに呟いた。  明日香には、密かな趣味がある。  小説サイトへの投稿。  人見知りの明日香は、友達といても専ら聞き役。その分、子供の頃から書くのが好きだった。  大学入学と同時に投稿を始め、短編ばかり20作品ほどを上げた。  このサイトでは、テーマが設定されたコンテストも頻繁に行われている。 今回のテーマが「雪の思い出」なのだ。 「明日香ちゃんじゃない?」  突然、目の前で男の人の呼ぶ声がした。  びっくりして顔を上げると、同い年ぐらいの男性が、窺うように明日香を見ていた。でも、誰なのか分からなくて、 「あ……はい……」  と怪訝な目を向ける。一方で、軽いざわめきのようなものも感じて、 (ん?でも、どこかで会ったような……)  思案していると、 「昌道だよ。香川昌道」 「えっ……」  思わず絶句する。  幼なじみ。しかも初恋の人だった。  幼なじみとは言っても、小学校4年の途中までの仲。明日香はそこで、隣の学区に転校してしまったから、それ以来だ。 「ここ、いい?」  彼は笑顔で訊きながら、もう明日香の向かいの席にコーヒーカップを置いて座っていた。  人懐こさは、あの頃と全然変わっていない。でも、雰囲気はかなり大人になっていた。 「よく分かったね。私だって」 「うん。さっきまで友だちと喋ってたろ?で、明日香、葵、ってお互いに呼び合ってたからさ」 「あぁ……」 (そういうことか。それなら……) 「葵もいるときに、声かけてくれればよかったのに」 「あっ、ごめん。俺、葵さんってちょっと苦手なんだよね」 「そうなの?」 「うん……」  少し分かる気がした。  葵は、良く言えばしっかり者。悪く言えば、小うるさいタイプの女子だった。  小学4年の同じクラスだった時も、アバウトな昌道くんは、葵によく叱られていたのを思い出して、クスッと笑うと、 「だから、明日香ちゃんが一人残って、ラッキーって思って」  と言って、昌道くんもクシャッと笑った。 (あぁ、この笑顔!そうなのだ。幼い頃、この人懐こい笑顔に恋をしたのだ!)  そんな事を考えていると、彼はいきなり席を立って明日香の隣の席に回り、 「何見てるの?」  パソコンを覗いてきた。慌てて隠そうとしても、後の祭り。 「雪の思い出……ASUKA?何?これ」 「もう、読まないでよ!」  ぽんと彼の肩を軽く叩いた。  10年振りに会ったのに、気を遣わずに話せる空気が戻っていた。 (今初めて出会ったら、絶対仲良くならないタイプなのに、幼馴染みってすごい!)  そう思いながら、今、小説投稿をしているのだと彼に話した。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!