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海峡に架かる大きな橋にはライトアップが施され、日没後もしばらくはこの海が暗闇につつまれることはない。わたしの心が壊れずにいるのはきっと、あの灯りのおかげだろう。
あの橋の上から身を投げたのは、もうずっと前のことだ。当初は初雪を除夜の鐘代わりに年を数えたりもしたが、5回に満たないうちにやめてしまった。
人は死ねば消えて無くなるものだと思っていた。大嫌いな自分とこの世界に、さよならできるものだと。しかし飛び降りた直後、目の前に広がっていたのは色とりどりの灯りに照らされた海で、見慣れた手足もついていた。死に損なったのだと勘違いしなかったのは、その足が海面の上にあったからだ。
日が上ると耐え難い睡魔に襲われて意識を失う。そして再び目を覚ますころにはまた橋のライトアップが始まっている。毎日、それの繰り返し。
海の上ならば自由に何処へでも行けた。しかし意識が途切れるたびにまた橋のそばに戻されるから、遠くの地へ足を運ぶことはできなさそうだった。もっとも、そんな気力なんてないのだけれど。
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