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磯の匂いや潮騒の賑やかさ、夜中の車通りの多さなど、この状況になって初めて知ったことも数多くあった。冬の美しい星空を見たときは、眠れない夜にもっと外へ出てみれば良かったと後悔した。この海が夜釣りのスポットだというのもそのひとつで、毎晩、橋の照明が落ちるまで釣り人が絶えなかった。
釣り人たちの多くは橋の近くの防潮堤に集まるから、砂浜にぽつんと佇むその姿を見つけたときは、自分の立場を棚に置いてゾッとしてしまった。少し前までは海水浴のシーズンで、若者たちが真夜中まで騒いだりもしていたが、この頃は季節が進んだようで静けさを取り戻していた。
波打ち際まで近づいてみると、若い男性のようだった。10代後半から20代前半──ちょうどわたしが身投げしたころの年代だ。鼻筋の通った綺麗な顔立ちをしているが、形の良い眉は下がり、口はへの字に曲がっていた。
その薄い唇が動いて、空気が振動した。
「ハル……」
切れ長の目から一筋の涙が流れ、頬を伝って落ちる。そしてしゃがみ込むと、堰を切ったようにしゃくりあげはじめた。男の人が泣くのを目の前で見たことが無かったわたしは、頭が真っ白になってしまった。
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