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「迎えに来てくれたのか?」
そうじゃない──どうすれば伝えられるだろう。迷っている間に彼は身体ごとこちらに向け、再び女性のものと思われる名前を口にした。
「ハル、そこにいるんだろう?」
あれほど苦手だった人との交流にさえ飢えていたのかもしれない、無意識のうちにわたしはまた彼の肩に手を置いていた。
「ハル!」
彼の両腕が空を切り、腕同士がぶつかる音が鳴る。戸惑いと虚しさの混じったような表情に胸が痛んだ。
「大丈夫、俺もすぐにそっちへ行くから」
再び海に向かおうとする青年の手首をつかんだ。彼は驚いたように顔を上げる。
「ハル?」
わたしは手に力を込める。
「俺を迎えに来てくれたんじゃないのか?」
手を緩めたあと、また握って離すという動作を2度繰り返した。その意図を確かめるように、青年は質問を変えた。
「違う、のか?」
一度だけ手に力を込める。
「俺が死ぬのは、反対なのか?」
また一度、力を込める。青年は悲しそうに顔を歪めた。
「どうしてだよ、ハルは寂しくないのか?」
反応に困って、固まってしまう。わたしがこの海に囚われてから、同類とは会ったことがない。だから彼がここで自ら命を絶ったとして、ハルと呼ばれる人物と同じところにいけるという保証はない。
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