空仰ぐ

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 ばあちゃんのお墓は高台の霊園にある。斜面に並べられた無数の墓石はミニチュアのビルのようだった。よく整備された植木を横目に斜面を登る。大人たちが呼吸を乱しているので僕はわざとゆっくり歩いてすれ違う墓石をひとつひとつ見た。枯れた花が供えてあったり、くもの巣がはっていたりする。  遠目からでは同じように見えたのに、同じものはひとつとしてない。この石の中に誰かが眠っている。そう思うだけで遠浅の凪いだ海が胸に広がっていく。  ばあちゃんは斜面の中腹にいる。黒くて見るからに重そうな墓石は、ばあちゃんのものだと思うと他よりもやわらかそうに見えた。僕はしゃがんで砂利に生える雑草を端から抜いていく。仕方ないから石を磨くのは譲ってやろう。  敷地はそこまで広くないが慣れない姿勢で小さな草にまで気を配ればさすがの中学生でも疲れる。背中を伸ばそうと一度立ち上がると、ほぼ同じタイミングでミエコさんも体を伸ばしていた。目が合う。が、ミエコさんはバツが悪そうに目をそらした。僕は近づき、ささやくように声をかける。 「僕、がんばりますから」  ミエコさんは小さな種のような瞳をさらに丸くする。それからかすかにほほえんだ。よく見るとしわの形がばあちゃんとそっくりだ。 「……あたしもがんばるからねぇ」  伝わったのかどうかはわからないが、まあいいだろう。  僕は今だってばあちゃんに会いたい。昔みたいにほめてもらいたい。僕は今もまだ、明日を待っている。  眼下には小さくなった町が見える。ばあちゃんのマンションが爪の先くらいだ。その上には雲ひとつない青空が広がる。遠い空だ。果てが見えなくて笑えてくる。 「そろそろ線香あげましょうかね」  伯父さんの声が耳に入って墓石の方を向き直ると、午後の甘い風がやさしく通りすぎる。線香の煙と僕の髪がふわりと舞った。
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