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しばらくして店員がエビチリや酢豚の入った中華風の松花堂弁当のようなものを運んできた。少しずついろいろなものがつめられており月並みだが宝石箱のようだ。
伯父さんが立ち上がり当たり障りのないあいさつをしてからみんな食べ始める。ひと呼吸置いて僕も食べる。味は、おいしい。お母さんがよく使うナニナニの素の上位互換だ。どうやらお腹が空いていたらしく体が求めるままに箸を動かし続けた。特に話をすることもないし。そう思った矢先、テーブルをまたいでミエコさんが話しかけてくる。
「ハルくん学校はどう? お勉強大変じゃない? 姉ちゃんからすごく頑張り屋さんだって聞いてたのよ」
再び僕に視線が集まり食事のために動いていた手が行き場を失う。
「えと、今のところは、大丈夫です」
「そ〜、すごいわね」
今一度僕に集まった注目は途切れることはなかった。ミエコさんを中心に受験、部活、好きな食べ物に彼女の有無まであらゆる話題が襲いかかり、ただ質問に答えるマシーンになる他なかった。お父さんもお母さんも笑いながらたまに合いの手のように僕の話さなかった情報を追加してくる。正直何を話したのかはあまり覚えていない。
「……ちょっとお手洗い行ってくるわね」
ミエコさんがそう言ってトイレに立ったことで空っぽな時間は終わりを迎えた。ようやく自由になった口に冷めきった料理を運ぶ。マシーンの名残か味がしない。それでも体がカロリーを欲しているのでかきこむ。お母さんが小さく「お疲れさま」と言ってきたのでひとつ頷いて見せた。
ばあちゃんの三回忌のはずなのに。故人を偲ぶための会なのに、どうして僕にばかり聞くんだ。エビチリの赤いソースを見ていたら急に感情が湧きだしてくる。
みんなは悲しんでなんてない。だからあんなに笑っていられるんだ。こんなのはおかしい! ふつふつと煮えるマグマは僕とみんなとの間に大きな川を作った。
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