空仰ぐ

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 金曜日、十七時着の電車。なのにいつも見かけるおばあさんがいない。白髪をひとつに結わえた腰の曲がったおばあさん。もしかして、亡くなった、とか……?  いや、そんな不謹慎なこと考えるものじゃない。ちょっと具合が悪いとか、気分じゃないとか、ひょっとしたら旅行にでも行ってるかもしれない。  結びついた可能性を振りはらい、年明けの冷たい風の吹く町へ歩を進める。わずかに太陽の光が残る空は藍色だった。駅から出てくる人たちは、僕と違って淡々と帰るべき場所へと散っていった。  おばあさんはいつも駅前を横切る通りをゆっくりと歩いている。小さな巾着を持っていて、僕は勝手に先にあるスーパーに向かっているのだと考えている。ちょうど割引の時間らしい。  ただ不思議なのが、雨の日も風が強い日も同じ時間に現れるということだ。ちょっとした割引くらいで天気の悪い日に無理に動く必要はあるのか? でも僕はこれ以上の答えを持ちあわせてはいない。  中学に上がってもうすぐ二年。この時間には欠かさず見かけた名前も知らないおばあさんがたった一度いなかっただけで落ち着かないのは、間違いなくばあちゃんのせいだ。遠回りした先の、ばあちゃんの暮らしていたグレーのマンションを見上げる。悲しくて悔しくて憎らしい気持ちを視線として一点に注いだ。そこにはもう別の人が住んでいる。少しむなしくなってすぐに背を向けた。  明日はばあちゃんの三回忌だ。
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