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「夜だから静かだね」  閉めたカーテンの繋ぎ目から、うっすらと届く光を見ながら声をかけた 「月だよ。外には月があるからね、この部屋よりもずっと明るいさ」  布団から顔だけ出して小さな声でやりとりする僕らの声は、真っ暗な部屋に ぴったりでちょっと笑ってしまった。    そのままいつものように僕らはいろんな話をする。一番の理解者で、大切な存在。僕らはいつだって一緒なんだ――。  どれくらいか、薄い布団の中でふざけ合っていた。 「しっ! しゃべらないで」  その声で僕は慌てて布団に潜る。真っ暗な部屋からもっと暗い空間に身を潜め、丸くなった。  離れた場所で重たいドアの音がする。ゆっくりと開いた瞬間、僕らの居る部屋の襖も引っ張られるように空気が動いた。  ビニールのこすれる感じと誰かの足音が一緒に近づいてくるのが分かり、やっと僕はほっとした。 「ハルキ」 「お、とうさん」  襖が開き、安堵の息とお父さんを呼ぶ声が重なった。 「二時なのにまだ起きてるのか」 「う、うん」  二時は夜中なんだな。電気を点けないから、外が暗くなってからは夜のどのあたりか分からない。それにこの部屋には時計もないし、僕は時間の読み方を知らない。でも月のある静かな時間なら知っている。 「あの、あのねお父さん。外の月が明るくてね」 「行くから」 「え、会えたばかりなのに? もう行くの」  台所のテーブルにビニール袋を置いたお父さんは、僕を見ないまま玄関に向かった。 「早く寝なさい」 「う……ん」  重たいドアが閉まっていくのを眺めた。  僕は諦めるのには慣れている。お父さんは好きだけど、お父さんは僕を好きじゃないかもしれない。 「ハルキ、布団に入ろう」  だけど僕には大切な人がいるから平気。 「うん。話の続きをしよう、『フユキ』」  フユキがいればいい。フユキも僕がいるだけでいい。 「ね、お父さんが持ってた袋、何かな?」 「フユキは鼻がきくね」 「良いにおいしてるよ、ハルキ食べたくないの」  お父さんが置いていったビニール袋からは、美味しそうなにおいがしていた。 「……だめだよ。食べて良いって言われていない」 「ハルキまだ痛い? この前たくさん叩かれたよね」 「フユキも叩かれたね」  そのときのことを思い出すと肩が震えてくる。 「久しぶりのご飯だったから、がまんできなくて食べたらすごく叩かれた」 「だからこのビニールの中のは食べちゃだめ。またあの人に叩かれる」  僕とフユキは良い匂いのするビニール袋を見つめずにはいられなかった。お腹が鳴る。 「あっち行こうフユキ」 「うん布団に潜ろうハルキ」  僕らは月の明かりの掛かる布団に潜り、眠るまで話し続けた。
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