フユキとの毎日

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 フユキとはこの家で会った。だけど本当はフユキはずっと僕を見ていたんじゃないかと思うんだ。  従姉妹の家に住んでいた頃、従姉妹のお父さんは優しい人だった。でも叔母さんはとても怖かったんだ。    初めて会ったときは笑顔だった。だんだんと僕を嫌いになるのが分かって、僕は笑えなくなっていった。  僕が喋ると「声がうるさい」僕が動くと「じゃま」熱がでたときは「うつる」と言われてしまう。  仲良くしていた従姉妹たちも、叔母さんと同じ事を言うようになっていった。何が悪いことなのか、僕はどこにいればいいのかが分からなくて、ずっと壁の前で立って過ごした。  幼稚園には行っていたけれど、楽しくはなかった。従姉妹はとても元気で明るくて、お迎えに来た叔母さんは従姉妹とだけいつも笑っていたから。    あるとき、幼稚園に行く時間になると鏡の前に立った従姉妹が笑顔で言った。 「わたし、かわいい」  それを聞いた叔母さんは従姉妹に笑いかける。そして僕を向いて言ったんだ。 「笑え」 「えっ」 「笑えよ、早く!」 「……」  唇がぴくりとしただけで、上手に笑えない。 「本当に可愛くない子。子どもなら笑えるだろう、笑え!」  頑張って口を開けても、目を動かしてみても僕はちゃんと笑えなくて。 「わぁ、ハルキばかだねぇ、こうやって笑うだけなのに」  そう言いながら従姉妹はにっこりしてみせる。笑わなきゃ、早く笑わないと叔母さんを怒らせてしまう。だけど上手くできなくて。 「もういいっ」  叔母さんの声が低くなる。 「あんた幼稚園行かなくていいから。笑えるまで立ってろ」 「はい……」    それからの僕は、ご飯とトイレのとき以外は何日も鏡の前で立って過ごした。 「ママ、ハルキはいつまであそこにいるの?」 「知らない。笑えもしないなんて、まったく可愛げのない子」 「簡単なのにねー。にぃーってするだけなのにね」  笑うのってどうするんだったっけ。どうして僕は簡単なことができないんだろう。僕は鏡の中の僕を何日も見続けた。    笑わなきゃ、笑うんだ、笑うんだよ。動いてよ僕の顔。   「…………」  そのとき、鏡の中のボクの口が何か言った気がした。顔が、悲しそうにゆがんで見えたんだ。 「……僕、今こんな顔してたかな」  そのうち叔母さんは僕を叩くようになった。押し入れに閉じ込められたり、「きたない、気持ち悪い」と言われることが増えた。  叩かれると鼻血がでるし口の中も切れてしまう。従姉妹の靴を赤く汚してしまったときは、従姉妹にも叔母さんにも何度も謝ったけれど許してはもらえなかった。  僕はちゃんと笑えない可愛げが無い子なのに、涙だけはたくさんでてしまう。悪い子なんだと思って鏡を見ると、ゆがんだ顔をしたボクが僕を見ているんだ。    ずっと僕じゃないボクが見ていてくれた。  いつもそばにいてくれた君は。  フユキだったんだね――。
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