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「パフェでもケーキでも、好きなもの頼んでいいよ。私が奢るから」
向かいに座った遥先生が、二人の前にメニューを広げた。元教え子が訪ねて来たと知った店長が気を利かせ、遥先生の休憩時間を早めてくれたらしかった。
「僕はコーヒーだけで大丈夫です」
聖也が答える。いつの間にコーヒーなんか飲めるようになったのだろうという軽い驚きを飲み込んで「私も」と、朝奈は咄嗟にあとに続いた。
「なんか、二人とも大人っぽくなったよね」
メニュー表をぱたりと閉じて、遥先生は少し困ったように微笑んだ。
確かに聖也はここのところ一気に背が伸びて、急に大人っぽくなった気がする。私は何か変わっただろうかと自問しながら、朝奈は曖昧に微笑み返す。
「て言っても、あれからまだ三ヶ月しか経ってないのかあ。もうずっと昔のことみたいに思えるよ」
講師をしていた頃よりも、彼女は幾分くだけた物言いをした。講師用の白衣を纏っていないせいか、年相応に幼くも見える。
そうか。この人はもう、先生でもなんでもないのだ。知っていたはずの事実を再確認し、朝奈はなんとも言えない気持ちになった。
「ところで話って?」
一通りの近況報告が済んだところで、思い出したように遥先生は言った。
長いまつげに縁取られた大きな瞳が、朝奈と聖也の顔を交互に覗き込む、その表情には覚えがあった。朝奈の脳裏に、いつかの授業風景が立ち上がる。
彼女はテストの結果だけでなく、生徒一人一人の目をしっかりと見て、真正面から向き合ってくれる先生だった。
それなのに。
隣で、聖也が大きく息を吸うのがわかった。それから、意を決したように口を開いた。
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