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店を出ると、空は重たい雲に覆われていて、来た時よりも寒さがぐっと増していた。
聖也は羽織っていたパーカーを脱いで、薄着を嘆く朝奈に手渡す。幼い妹を庇護する兄のように、ごく自然に。
「ありがとう。聖也は寒くないの?」
「うん、大丈夫」
言いながら、聖也の足はすでに帰路を辿り始める。ぶっきらぼうで優しい、それは紛れもなくいつもの聖也で、朝奈はそっと胸を撫で下ろした。
遥先生のことは忘れよう。過ぎたことは仕方がない。ぜんぶ忘れて、勉強に集中しよう。
心の内で唱えながら、朝奈は聖也のあとを追う。
冷たい風が吹いていた。凍える指先を少しでも温めようと、朝奈は両手をポケットに突っ込んだ。
瞬間、何かに触れた。
咄嗟に引き抜いたそれを見て、朝奈は悲鳴をあげそうになる。
ポケットに詰まっていたのは、大量の髪の毛だった。
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