ヒルダと雪の思い出たち

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 ***  これは本格的に、やばいことが起きている。  その夜、私は両親と姉、四人で家族会議を行ったのだった。リビングでテーブルを囲んで話し合い、である。  ちなみに私は中等部の学生で、姉のミランダは同じ学校の高等部に通っている。両親は政府の魔法省で働く、れっきとした魔女と魔術師だった。 「ヒルダのクラスもやっぱりそうだったわけか」  はあ、とミランダはため息をついた。 「あたしのクラスメートもほとんどが駄目。みんなの頭の中から、ものの見事に雪の思い出が消えちまってんだよ。覚えてんのは、少しでも魔法の心得があったやつ、素質があったやつだけ。つーことはこれ、誰かの魔法攻撃ってことだよな?それも、超でけー規模の」  そう。  ここ最近起きている、とんでもない事態。それは、町中の人達が雪の存在とそれにまつわる思い出を忘れてしまう、というものだった。  この町では毎年、一月から二月にかけて大雪が降る傾向にある。初雪も大抵、十一月の末には観測されている。それなのに、今年は新年を迎えても雪がまったく降っていないし、誰もそれをおかしいと思っていない。これは異常事態だった。  学校でも慌てているのは、私や姉のような魔女の見習いと、魔法を嗜んでいる一部の教員のみ。うちの学校には魔法使いとそうでない者が一緒になって通っているが、まさかこんなところで格差が生まれるとは思ってもみなかった。  魔女たちにだけ今のところ影響が出ていない、ということは――これは何者かによる魔法攻撃ということになる。だが、町全体にそんな大規模な認識災害を起こし、しかも実際に雪が降らないように天気まで操作できるとなると――正直人間技ではない。 「魔法省でも調査を行っているところだ。人間の仕業か、妖精か、神か、まだはっきりとはわかっていないからな」  ただ、と父は言う。 「このままこの国で雪が降らないと……大規模な水不足になることは免れられない。うちの国は雨季が短く、ダムの水源は雪に大きく依存しているからな」 「だよね……」 「加えて、一部の農作物なんかは雪の下に埋もれて寒さを感じないと芽吹くことがない。どれだけの経済的損失になるかわかったもんじゃない。一刻も早く、対処せねばなるまい」  やはり、大人達も危機感を感じているようだ。  実際、天気予報を見ても晴れか曇りばっかり続くと出ている。十二月なのに、一か月の予報のどこにも雪マークがつかないなんて、この寒い北の町・ホワイトタウンでは過去まったく例がなかったことだ。  雪が降らない上、人々がみんな雪を忘れてしまう。  やはり、雪を司る“何か”が動いているとしか思えない。とすると。 「冬の女神様に、問題が起きてるんじゃないのかな」  私は口を開く。 「正確には……冬の女神様の娘の、雪の女神様。私と姉さんで、雪の宮殿に行って様子見てこようか?確か、雪の女神様って子供しか会えないんだよね?」  多分、両親もそのつもりだったのだろう。むしろ、最初からそう依頼するつもりでこの家族会議を始めた可能性が高いと察していた。  両親は顔を見合わせると、やがて頷き合って言った。 「そうだな、それしかないか。魔法省からも正式に要請が出ているしな」 「山の麓までは私達も一緒に行くわ。ミランダ、ヒルダ、お願いしてもいいかしら」  この国が大好きで、雪が大好きなのは私と姉も同じ。私達はともに、良い子の返事をしたのだった。 「はい!もちろんです。魔女の見習いとして……役目を果たしてみせます!」
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