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それぞれの季節の女神様は、みんな自分のお気に入りのカラーを身に着けている。
春の女神様はピンク、夏の女神様は青、秋の女神様はオレンジ、冬の女神様は白といった塩梅だ。
私達が氷の神殿に辿り着くと、有難いことに真っ白なその人は入口で待っていてくれていた。神様には予知能力があるとされている。きっと、私達の来訪もわかっていたことだろう。
「お待ちしておりました、可愛い魔女さんたち」
真っ白な長い髪、真っ白な肌、瞳だけが金色に輝いている美しい冬の女神様は。私達に対して、深々と頭を下げてきたのだった。細身の白いドレスに、氷でできた杖を持っている。神話の絵本と教会でしか見たことのない荘厳な姿に、私は思わず緊張して声がひっくり返ってしまった。
「ここここ、このたびは、お、お会いできて、こ、光栄です!」
「そんなに緊張しないでくださいな。……むしろ、謝らなければいけないのはこちらなのです。私の不始末で、この国から雪を奪ってしまったのですから」
「どういうことなんだ、女神様?」
姉のミランダは、相変わらずつっけんどんな口調で言う。彼女は丁寧語が苦手で、ついついぶっきらぼうな喋り方になってしまいがちなのだ。けして乱暴な性格だったり、品がない少女というわけではないのだが。
「私の娘の一人……雪の女神、スノウが。完全にへそを曲げてしまったのです」
そんなミランダの言動を気にする様子もなく、冬の女神はため息をついた。
「去年の冬のことです。スノウはこっそり町へと降りました。彼女ははずかしがりやですから、一部の子供の前にしか姿を現しませんが……姿を消した状態で町を散歩していることは珍しくないのです」
「あ、そうなんだ」
「知らなかった……」
「ええ。それで去年の冬。たまたま駅前の広場で、大人達が愚痴を言っているのを聞いてしまったそうで」
『あああああ、電車遅れてるううううう!』
『もう、マジでうざい、雪うざい』
『商談に間に合わないじゃないか、どうしてくれるんだ……』
『雪なんて寒いし、交通機関麻痺するし、いいところひとつもないじゃん』
『もう、雪なんてなくなればいいのになあ』
あー、と。私は頭を抱えることになった。
子供と大人では、雪に対する認識があまりにも違う。私達子供は雪が降ると、雪遊びができて楽しいとか、ロマンチックだなと思うことが少なくない。そりゃ、事故が起きてしまうことがあるのは恐ろしいが、それ以上に雪はわくわくするものに他ならないのだ。
でも大人達の多くは違う。
電車が遅れたり、車がスリップしたり、視界が悪くなったり。良いことなんか何もない、面倒くさいものだと思っている人も少なくないのだろう。なるほど、雪の女神であるスノウが運悪くそれを聞いてしまったということらしい。
――それで、自分なんかいなくなればいいんでしょ!と役目をボイコットしちゃったわけか。
多分、去年の冬から今年に入るまで、母である冬の女神はずっと説得をしてくれていたのだろう。しかしどうにもならなくて、結局今に至るというわけだ。
「……ヒルダ、どうしよう」
姉が困ったように私に声をかけてきた。
「あたし、ここに来たはいいけど頭脳はじゃねえし。それを言ったのあたしじゃないから、あたしらが謝っても多分意味はないよな?どうすれば、スノウ様に機嫌を直してもらえっかな……」
「だね……」
自分だったら、と思う。己なんかいらないんだ、と落ち込んで、下を向いている時。どうすれば、もう一度明るい気持ちになれるだろうか。己の自信を取り戻すことができるだろうか。
それはやっぱり――己は必要な存在だと、他者によって思い出させて貰えること、ではなかろうか。
「……あの」
意を決して、私は口を開く。
「冬の女神様。私達を……雪の女神様に会わせてくれませんか。それで……一緒に遊ばせてくれませんか」
子供なりの拙い考えだが。スノウは、情報通りなら子供の心を持った女神様であるはず。ならば、同じ子供が、彼女の心を開かせるしかないのではなかろうか。
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