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三千X年…。人類は、生き残っていた。度重なる危機(その多くは、人類が自ら招いた過ちで、戦争と気候変動による災害、事件、事故が大半であった)を何とか乗り越えながら、繁栄と衰退を繰り返して…。
早朝。朝日に照らされて、キラキラと輝く海岸を老人と男の子が散歩していた。老人は、見た所かなりの高齢で、歩みも遅い。腰の後ろで手を組んで、砂に足を取られないように慎重に歩を進めている。
一方の男の子は、まだ五歳ほどだろうか。嬉しそうに波打ち際を走り回って、波と“追いかけっこ”をしている。時折足を海水で濡らしながも、とても楽しげであった。
しばらく進むと、老人が不意に歩みを止めた。老人の視線の先には、波によって打ち上げられていたプラスチックとかビニールと思しき小さな残骸が、いくつか落ちていた。
老人は、残骸の側まで行くと、『よっ』腰を落として、それらを拾い上げた。そして、自らのズボンのポケットへと押し込んだ。
老人のその様子を見ていた男の子が、不思議そうに尋ねた。
「そんな汚いの拾ってどーするのー?」
老人は、優しく微笑みながら言った。
「持って帰って、ちゃんと捨てるんだよ。そうすれば、海も惑星も綺麗になるだろ?」
「ふーん。こんなちょっとくらいじゃ、何も変わらないと思うけどなー」
そんな納得のいかない様子の男の子を諭すように老人は言った。
「この心得が大事なんだよ。少しでも、ほんの少しでもと言う気持ちがね。昔の人、大昔の人の中にも、こう言った心得を持っている人がいたおかげで、ワシらはこうして“今”生きている事が出来ているんだよ。
さもなくば人類なんて、とっくの昔に滅んでいたからね…」
「ふーん。そーなんだー」
よく分からない様子の男の子に老人は続けた。
「いいかい?この心得をしっかりと自分の中のポケットにしまっておくんだよ。そして、この心得は簡単にポケットから飛び出したり、その辺りに落っこちてしまったり、落とした事に気が付かない事もよくあるんだけど、大事にしないといけないよ。分かったかい?」
「うんー!わかったー!」
男の子は、そう言ってまた無邪気に波打ち際を走り出した。老人は、その後をゆっくりと見守りながら歩んでいくのであった。終
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