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「なんで、姫がここに……」
「シッ。私をここでは姫と呼ばないで」
ヒナが人差し指を唇に充てた。
「お城にいて報告だけを聞いててもわからないことはたくさんあるからね。こうして町娘に扮して見たり聞いたりしてるんだ」
「そ、そうなんですね……」
「それでも、この国の隅々まで行き届くなんて無理なんだけどね。『王は現状をわかってない』って思われちゃうこともある」
ヒナはアリスに笑いかけた。自分が先日言った言葉だとわかりアリスは苦笑した。
「その節は失礼を……あ、それよりも先に言うべきことが! 私たちの村を救ってくださってありがとうございます」
「御礼なんていらないよ。この国を守るのは私の役目だから」
頭を下げようとしたアリスとリヒトをヒナは止める。
「ただ、アリスのような子がいれば、あの村は大丈夫だって思ったよ」
「え?」
「私たちが……もし最大戦力であの村を救ったとしてもね、それだけじゃダメなんだよ」
「どういう……意味ですか?」
「私もサキたちも国を守りたい。でも国中の危機すべてに駆けつけることなんてできない。私たちだけアテにしてるだけじゃ国は強くなっていかない。必要なのは、絶望の中でも自分の力で立ち上がることのできる存在、アリスのような子だよ」
「私……?」
「今は弱くとも、貴方のような存在が、これからの希望になる」
「希望……? 私が……?」
ヒナはアリスの手を取った。
「貴方のような存在に会いたかった。私はまだ何もできない姫だけど、皆のことは大切に思うことしかできないけど、アリスのような人となら平和な国を作っていくことができると思っているんだ。だから……これからも手を貸してほしい」
一国の姫が自分に会いたかったと言ってくれている。にわかに信じられないことだった。
しかし、手を通して伝わってくる温もりは、その真剣な眼差しは、いままでのすべてのことは、アリスがヒナを信じるに値するように思えた。
「こちらこそよろしく、ヒナ」
アリスが微笑むとヒナもまた微笑んだ。
真の平和はまだ少し先のことになるかもしれないが、アリスはこの先の未来に期待できるような気がした。私こそ貴方のような存在に会いたかったんだと心の中でアリスは呟いた。
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