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激しい頬の痛みでアリスは目を覚ました。朧気な視界だったが頬の熱を持った痛みが視界を無理やりハッキリさせていく。
薄暗い部屋の中だということがアリスにはわかった。
「気がついた?」
声の方向を見ると、横にいるのは昨日出会った旅人たちがいることがわかった。黒髪の女性のほうだった。隣には亜麻色の髪のヒナもいた。
周りには多くの女子供もいた。同じ村の者たちだった。
「ここ……は?」
「私たちはスエイクの奴らに捕まえられて、ここに閉じ込められてるの」
黒髪の女性が言った。
「……え?」
「早い話が捕虜になってるってこと」
ヒナが言った。アリスがゆっくりと身を起こす。目が慣れてきてようやく、ここが村の貯蔵庫であることがわかった。女子供はここに閉じ込められているようだ。
「貴方たちも?」
「残念ながらね」
「リヒトは!? ほかの人たちは!?」
アリスの問いにヒナは俯いた。
「軍勢の数が全く違っていた。勝ち目などなかった」
黒髪の女性が言った。
「それじゃリヒトは……」
「わからない」
「そんな……」
アリスは両手で頭を抱えた。ついさっきまで近くにいた幼馴染は今、生きているのかすらわからないなんて。両目から涙があふれだした。そんなアリスの両肩を黒髪の女性が掴んだ。
「まだ出来ることがあるなら希望を捨ててはいけない」
黒髪の女性が言った。
「まだその彼がどうなったかはわからない。そして、貴方は生きている。まだすべてが終わったわけじゃない。だから、絶望してはいけない」
「クレア様の言うとおりです」
横からヒナが言った。クレア、それが黒髪の女性の名前らしい。
「貴方たちは――」
「シッ」
クレアは急に立ち上がりドアのそばの壁に張り付くように移動した。どうしたのかと聞こうとしたアリスの口をヒナの左手が塞いだ。
鍵が開く音がしたかと思うと、ドアが開いた。
「人質共はちゃんとおとなしくしているかなーっと……」
スエイク国の鎧をまとった兵士だった。その兵士が部屋へと一歩足を踏み入れた瞬間だった。
クレアが両腕をかざし、兵士の後頭部へとそれを振り下ろした。ドアの死角からの一撃を兵士は悲鳴をあげることもできずその場に倒れこんだ。
「なっ! オマエ何を……」
もう一人いたらしい兵士がその言葉の続きを言うより先に、ヒナが兵士の顔面を蹴り飛ばした。もんどりうって兵士は仰向けに倒れた。
「これでヨシ」
「ヒナ、まだ何も良くなどなっていない。こいつらの武器を奪うのが先だ」
クレアは、ヒナにそう告げると倒いた兵士の剣を奪い取った。「そうですね」とヒナももう一人の剣を奪った。
クレアは奪った剣の鞘を腰ひもに通した。
「お供します」
微笑みながらヒナが言った。一瞬の間のあと「止めても無駄なのだろうな」とクレアは頷いた。ヒナがアリスのほうを見る。
「驚かせてごめんね。誰がどこにいるかわからない状態で暴れるのは危険だと判断して、女性や子供がココに固められたってわかったから動くことにしたんだ。安全のためにも皆さんはここにいてください。この村を救ってみせます」
「貴方たちは一体……」
「大丈夫。私とクレアに任せて」
ヒナの言葉にクレアも頷いた。
アリスの胸に光が灯る。「この人たちならば村は救われるのではないか」と。
「私も連れてって!」
いつのまにかアリスは立ち上がりそう叫んでいた。
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