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グツグツと何かが煮える音が聞こえる。おかゆを作ってくれているらしい。
彼女は俯きながら語りだした。
「地獄の門番にケルベロスがいるように、天国にも番人さんがいるんだけど、その番人さんから現世に三日間だけ戻ってこれる権利をもらったの。でも、三日だけってあまりにも短いじゃない? もっと長くあっちにいられないのかって番人さんに聞いたんだ。そしたら、死神になることを提案された。現世にいる期間を長くすることはできないが、相手をこちら側へ引き込んでしまえば早く、そして長く死後の世界で一緒に暮らせるだろうって」
彼女は俯いたままで話を続ける。
「どうせ、あんたは私がいないとまともに生活出来ないだろうし、番人さんの言う通りにすれば長く一緒にいられると思って、私はあなたの命を奪うためにこっちの世界に来た。でも、実際あんたはテキパキ働いて、しっかり自炊して、私が生前にしていた習慣もしっかり引き継いでくれていた」
俺がそうだろと胸を張ると、彼女はそれを鼻で笑った。
「端からあんたを殺すことなんて私にはできなかった。そうだ、このおかゆも捨ててちょうだいね。私があなたを殺そうと毒を入れたものなの。私ってばほんとに馬鹿ね。もうこの世界にいれないからって、また悪あがきをしちゃった。まぁ、だからさ、のんびりくたばってよ。待っててやるからさ」
彼女はそう言って顔をあげた。彼女の顔は今までと打って変わって優しさに溢れていた。
そこから、どんどん彼女は薄くなっていって、しまいには消えてしまった。
俺は火を止めて、残されたおかゆを見つめていた。そして、冷めてしまう前に俺はそれを口に運んだ。今すぐ彼女に会いに行きたい。その一心だった。おかゆは物凄く優しい味で美味しかった。自然と涙が出てきた。こんなに幸せな気持ちで死ねるなら本望だ。
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