虎須くんのポケットの中

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 うわーん、と大声をあげて泣き始めた私と、叫びながらTシャツを伸ばす虎須くん。  この世の終わりだ。  そう思ったとき、天から声が降ってきた。 『あーもうこんなところに脱ぎ散らかしてからに~』  私も虎須くんもぴたりと声を止めて、驚いて顔を見合わせた。  そして次の瞬間、いきなり地面が突き上げられて、世界がぐるりと反転した。思わずギュッと目を閉じる。 「きゃあっ」 「うわっ」  どしんと尻もちをついた私の頭に、バサリと何かがぶつかって床に落ちた。 「いたたた……」  目を開けると、手土産の入った袋が横に落ちていた。周囲はデニムではなくて――洗面所? 「あら、あんたらどこから出てきたん?」  そこには、洗濯機の前であのヴィンテージジーンズのポケットを裏返している女性がいた。 「母ちゃん!」虎須くんが叫ぶ。 「天の声!」私が叫ぶ。 「あんらまあ彼女? ほんでアンタなんちゅーかっこしとるのよ。ほらズボン穿きなさいな」  そう言ってお母様は、洗濯機の横の衣装ケースからスウェットのズボンを取り出して、虎須くんに放った。  ――ああ、お母様。と私は感嘆した。  洗濯前にポケットをひっくり返して、中身を確認するお母様のおかげで、私たちは外に出ることができた。  そして、虎須くんにズボンも穿かせてくれるなんて。お母様のおかげで、ズボンを穿いた虎須くんにまた会うことができた。  私は感極まって、紙袋から菓子折りを取り出して、お母様に差し出した。 「お母様、一生付いていきます!!」  手嶋(てしま)、母ちゃんになびいてしまうのか。と、隣で虎須くんが嘆いていた。 〜おわり〜
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