虎須くんのポケットの中

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 突然襲った激しいめまいが治まり、私は床にうずくまったままゆっくり目を開けた。  あれ、床が水色だ。こんな絨毯敷いてあったっけ。  虎須くんに尋ねようと顔を上げた瞬間、眼前に広がる光景に目を疑った。水色……いや、デニム色。あわててキョロキョロと周囲に目をやると、だだっ広い空間に360度見渡す限りのデニム色が広がっていた。  デニム? ポケット? なに、ここ。意味わかんない……  混乱で半泣きになっている私の背後で、ジャラッという金属の音がした。 「驚いただろ? ここなら俺と手嶋は完全に2人きりだぜ!」  この異空間でもさっきと変わらぬ虎須くんの声がした。ピンチのシーンでヒーローが登場したような安心感に包まれて、喜びに目を輝かせて私は振り返った。 「虎須く――」  喜びも束の間、私は目の前の光景に再び目を疑った。  青い、短パン……? じゃない!! 「ギャーっ、ヘンタイ!!」 「なっ、どうした手嶋! どこにヘンタイがいるんだ!?」 「おまえだよ!」 「なに!?」  うっかり虎須くんをおまえ呼びしてしまったことを、気にしてる余裕はない。だって……白Tにジージャン、なのに、虎須くんの下半身はパンツ一丁なのだ。 「ズボッ、ズボン穿いてよ!」  ああ、と納得したように、虎須くんは穏やかに微笑んだ。 「穿いてたジーンズのポケットの中だからな。穿いたままポケットに手を突っ込んで、体だけ吸い込まれたら脱げてしまうのは当然だろ?」  いやに自信たっぷりの虎須くんに、私は絶望的な気持ちになった。謎の空間でヘンタイルックの彼氏と2人きりになったところで、嬉しくもなんともない。
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