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怒鳴り散らしたせいでハアハアと肩を激しく上下させる私に、虎須くんは悲痛な面持ちをみせた。
「手嶋……やってしまったな」
「なにそれ、駄洒落のつもり?」
「あのチェーンは、ポケットの外への道しるべだったんだ……」
え。
「ど、どういうこと?」
「ここは時空が歪んだ場所だから、出口は目に見えない。だからチェーンの端をズボンの腰のループと繋げておいて、持ってたもう一端から辿っていけば外へ出られる、命綱みたいな役割だったんだよ、あれは」
「えーっ、そんな……じゃあもしかして私たちは……」
「そう。ここから出られなくなってしまった」
絶望の宣告に、ぶわっと涙が湧き上がった。
「そんな……いやだよ。こんな場所に閉じ込められて、水も食べ物もなくて……死んじゃうじゃん」
「大丈夫だ。当面の食糧はある」
そう言って虎須くんは私の足元に落ちている手土産の袋を指差した。私はお母様への菓子折りを持ったままポケットの中に来ていたのだ。
「全然大丈夫じゃないよ……」
「俺にまかせろ。外へ出る方法は必ず見つけてやる」
目の前の瞳は決意に煌めいている。パンツ男の思いがけない頼もしい言葉に、私は感動した。
「ああ、トランクス……!」
「虎須くんって呼んで」
「トランクス!」
感極まってジージャンパンツ姿のトラン……いや、虎須くんに抱きついた。いろんなことがありすぎて、私のテンションはすでに狂ってる。
「ここから出してくれたら一生付いてく!」
「ああ。俺が必ず救い出してやるからな」
そして、まるで物語のヒーローとヒロインになった心地で、私たちは手を繋いだ。
「チェーンが消えたのはあっちの方向だな。あそこに向かって走るぞ!」
「うんっ!」
私たちは勢いよく駆け出した。手を取り合って、走る。ときおりデニム地に足を取られそうになる私を、虎須くんが支える。
どこまでも走る。どこまでも、どこまでも――
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