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私の複雑な心境を、虎須くんは爽やか笑顔で跳ね返した。
「さあ、このTシャツを引き裂いて、ロープを作ろう。投げ縄の要領で出口を探すんだ」
なんだか虎須くん史上最高に頼もしく思えてきた。今あるもので前向きに生き延びようとする、その精神が野性的だ。ジージャンが長袖でも、虎須くんはワイルドなのね!
「虎須くん、かっこいい!」
「おう、まかせろ!」
虎須くんの両手がTシャツの裾を握った。素手で引き裂くなんて、なんてワイルドなの!
「ぅおりゃああああああああああ!!」
すさまじい咆哮とともに、その手が力いっぱいTシャツを引っ張る。
「がんばって!」
「ぬぉおおおおおおおおおお!!」
「ぐぁああああああああああ!!」
「ぎぃぃいいいいいいいいい!!」
虎須くんの雄たけびが響き続けるにつれて、私のテンションはみるみる下がっていった。
彼の手には、裾が伸びてびよんびよんになったTシャツがあった。穴すらあいてない。Tシャツってけっこう丈夫なのね。
私はなんだか冷めた心地になり、目の前でTシャツと格闘する虎須くんを眺めた。
ああ、私はこんな場所で、トランクスの彼氏と二人で飢え死にしてしまうのね。
死ぬ前にキスくらいは経験してみたかったけど、いま目に映ってる虎須くんとのキスを想像すると、心の底から躊躇ってしまうのはどうしてかしら。
虎須くんと付き合って1年間、もっと触れ合いたいとずっと思ってきたはずなのに。
私は自分の心に問いかける。
そうか。私は――
虎須くんに、ズボンを穿いてほしいんだ。
ファーストキスは、ズボンを穿いた虎須くんとしたいんだ……!
そんな当たり前のことが、この空間ではできないじゃないか……!
「外に出たいよぉ~~~~!!」
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