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彼氏の虎須くんに、初めて家に誘われた。
「もしかして2人きり?」
「いや、母ちゃんとかいるけど」
「そっかあ。……ちょっと残念かも」
「でも部屋で2人っきりになれる場所あるからさ!」
意外な答えに、おや、と思った。彼の表情はいつになく自信に満ち溢れている。もしも進展するのなら、いったいどんな素晴らしく完璧なシチュエーションを用意したのだろうと、まるで他人事のように期待が膨らんだ。
というのも、私はすでに待ちくたびれていたのだ。だってまるまる1年。1年もだよ!? と、何度友達に愚痴っただろう。高校1年の冬に告白されて付き合ったのに、季節が一周巡っても、虎須くんとはキスもしていない。
――人が見てるじゃん。
私の定義では「2人きり」だった教室で、校舎裏で、帰り道の路地裏で、遥か彼方に人影を見つけては指差して、触れ合う直前に彼は怯むのだ。
しかも怯んだあとに、まるでそれが正解かのように「初めては場所が肝心だよな!」と自信たっぷりに言う。
そんな情けなさとか妙な自惚れとかが私の心を鷲掴みにするものでして、愛情か憐憫かも区別はつかないままついずるずると進展も後退もなく一年をともに過ごしてきたのでした。
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