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ようやく落ち着いた呼吸のリズムを感じながら、俺は天井を見上げた。
肩と肩が触れ合っていても、頭の中は静まりかえっている。
理人さんの声は、もう聞こえない。
どうやら、俺たちのセックスをもって〝心の声ダダ漏れパニック〟は終わりを告げたようだ。
思わず「ほうっ……」と安堵していると、上半身に理人さんが巻き付いてきた。
火照っていたはずの肌はすでに冷め始めていて、背中はもう冷たい。
毛布をひっぱり上げて巻き付けると、理人さんは俺の鳩尾にぐりぐりと額を擦りつけた。
「理人さん?」
どうしたんだろう。
いつもより、圧が強い。
あ。
さては、喜んでるな?
他に好きな人ができたとじゃなくてよかったーーきっと、そんな風に安堵して涙目になっているに違いない。
よしよしと頭を撫でると、理人さんが腕の中で俺を見上げた。
「避けててごめん」
「えっ?」
え、避けて? ……って、この3日間のこと?
でも、避けてたのは、むしろ俺の方ーー
「信じてもらえないかもしれないけど……ずっと、声が聞こえてたんだ」
え。
「佐藤くんの、声」
えっ。
「心の、声が……」
ええええぇぇーっ!
「は? え、ちょ、ちょっ!?」
「あ、い、今はもう聞こえてないから! 何も! 全然!」
わたわたと両手を広げながら、理人さんは矢継ぎ早に言葉を紡いでいく。
「その、年明けくらいから、声が聞こえ始めたんだ。最初はそれが佐藤くんの心の声だって気づかなかった。でも、いろいろ考えたらそうとしか考えられなくて……しばらくは、楽しかった。俺が思ってたよりもずっと、佐藤くんは俺のことを考えてくれてるんだってわかって嬉しかった。でもそのうち、聞いてていいのかよ、聞いてるべきじゃないよなって、罪悪感でいっぱいになった。だから、佐藤くんに触れなくなって……声が聞こえるのは、どこかが触れ合ってる間だけだったから」
嘘だろ……?
まさか、理人さんにも同じ事が起こっていたなんて。
俺の下で悶える理人さんに「かわいいかわいい」とデレデレしていたことも、「理人さんのためなら何だってやる」と意気込んでソコをぺろぺろしていたことも、全部バレていたなんて!
そんな素振り、理人さんの言動からはまったく感じなかった。
だからずっと、一方通行だと思っていたのに。
こんなの、あんまりだ。
ポーカーフェイスが得意にもほどがある……!
「俺、佐藤くんのこと、大好きだから……佐藤くんの願いは、全部叶えたい。俺とやりたいことがあるなら、俺にできることなら、何でもやりたい。でも、ソレだけはどうしても決心がつかなくて……」
ん?
ソレ……?
「だから、避けてたんだ。ごめん……っ」
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