前略、大好きな人の心の声が聞こえるようになりました。

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 いやいやいやいや、待って待って待って待って! 「ソレって何のことですか?」 「い、言わせるのかよ。もしかして、これもプレイの一環なのか……?」 「はい!?」  何だよ、プレイって! 「ちょっと! ちょっと、ちょっといったん落ち着きましょう!」 「焦ってるのは佐藤くんだけだろ。俺はもう落ち着いてる」 「はい、大正解! ピンポンです!」  ……じゃなくて! 「理人さんが聞いてた俺の心の声って、どんなこと言ってたんですか……?」 「い、言えるかよ」 「言ってください!」 「だ、だからっ……」 「言って! お願い!」 「……」  もちろん俺は、なりふりかまわず迫り続けた。  ソレとか、プレイとか、プレイの一環とか。  聞き捨てならないけれど、絶対に聞き逃してはならないワードばかりじゃないか! 「な、何なんだよ……」  ようやく観念したのか、理人さんは思いっきりへの字になった口をモゴモゴ動かした。 「『今年は理人さんとSMっぽいことしたいなあ』」 「……は?」 「『まずはライトなところからかな。おもらしプレイで気持ち良くなってもらって……』」 「は?」 「『あわよくば、尿道プレイまで……』」  はあああああ~~~ッ!? 「俺、そもそもそういうプレイがあること自体知らなかったから……調べたんだ」 「……」 「びっくりしたけど、佐藤くんがそういうことしたいなら、って思って……」 「……」 「でも、どうしても、その……決心が、つかなくて……」 「……」 「ごめ……」 「理人さん!」  切ない声で続いていた言葉を遮り、細い身体を腕の中に閉じ込めた。  とくん、とくん。  聞こえてくるのは、心臓が鼓動を打つ音だけ。 「はああああ……」 「……なんのため息だよ」 「理人さん、俺のこと好きすぎです」 「な、んだ、それ……」  まさか俺のために聞いたこともない〝プレイ〟を検索して、内容知ってビビりまくったくせに、俺のためならと実行することまで具体的に考えてしまうなんて。  あまりにも健気で、いじらしくて、エロくて。  どうにかなりそうだ。 「俺も、理人さんが大好きだから。理人さんが少しでも嫌だって思うことは、したくない。分かるでしょう?」  そもそも、俺は『SMしたい』なんて考えてもいなかったし、そういうプレイがあることは知っていたけど、調べたことはまだなかった。  もしかしたら、今は理人さんの方が詳しくなっちゃってるかもしれない。  あれ?  でも……いや、だとしたら…… 「理人さん、実はSMに興味あったりします?」  理人さんに聞こえていた俺の心の声は、本当の心の声じゃなかった。  話の流れから判断するに、俺に聞こえていた理人さんの声も、俺に都合の良い内容に変わっていたに違いない。  だとしたら、理人さんが聞いた『SMしたい』っていう俺の思いは、本当は理人さんの心の声だったということになる。 「はあ!? あ、あるわけないだろ!」  理人さんは全身を使って全否定するけれど、真っ赤な顔に染まった顔のせいで、説得力ゼロだ。 「またまた~。本当は俺の前でおもらししてみたいんじゃないですか~?」 「おもっ……!? し、したいわけあるか、バカ!」 「いてっ」 「俺はっ! SMなんて、絶対、一生、神に誓って、しないからなッ!」  あ。  神には誓わない方がいいかも。 「……佐藤くんと一緒なら、それだけでいいんだよ」  離れていた細い身体が、またピタリと寄り添ってきた。  冷えた指先が俺の手を探し出し、ゆっくりと絡み合う。  体温が、少しずつ奪われていく。  なんて心地いいんだろう。 「お、おもらしなんて……しなくたってな……」 「……」 「俺は、佐藤くんが隣にいてくれたら、それでいいんだから……」 「理人さん……」  ああ。  理人さんが、ポーカーフェイス得意でよかった。  理人さんのこんな顔を見られる人間は、  この世に、俺だけでいい。 「大好きです、理人さん」 「……」 「愛してる」 「……俺もだ、このやろう」  言葉にならない思いを口づけに託し、俺はそっと目を閉じる。  蠢く闇の世界の果てで、神様の高笑いが聞こえた気がした。  fin
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