前略、大好きな人の心の声が聞こえるようになりました。

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(あー、佐藤くんに「長くなるから先に」って譲った方が良いか? でも、そしたら確実にバレるよな。バレたら絶対、「俺がやる」って言われて佐藤くんにお尻洗われることになるし……やっぱり、自分でやろう)  バスタオルを受け取ろうと理人さんが腕を伸ばしたせいで、二の腕が俺の肩に触れ、理人さんの思考がどんどん俺の頭の中に流れ込んでくる。  エッチな、思考が。 (でも、久しぶりだからなんか怖いな。ちゃんと、自分で指突っ込めるかな……三本……いや、せめて二本入るところまでは解しておきたーー) 「理人さん!」 「んむっ!?」 (な、なんだ、いきなり!? あー、でも、気持ちいい……佐藤くんの唇、大好きだ。あったかくて、柔らかくて、おいしーー) 「理人さん……!」 「ふぇ……?」 「黙ってください、頼むから」 「えっ……」 (え、え? もしかして、俺、全部声に出してたのか!? は、恥ずかしい……!)  ボンッと真っ赤になった理人さんを腕の中に引き込み、俺は告げた。 「今夜は、やめましょう」 「へ」 (な、んで……?) 「や、あの……ちょっと、その……疲れてて」 「……」 (あ、あー、そういうこともある、よな。別に、今日するって約束してわけじゃないし……でも、佐藤くん家では人がいてできなかったし、帰ってきてからもしてないから……もう、十日くらいになる。十日も、してない……ハッ、これってもしかして、〝セックスレス〟ってやつか!?)  いいえ、理人さん。  たった十日間でレスなんて言わないです。 (そういえば、こっちに戻ってきてから、なんか様子が変だったよな。もしかして、ほかに好きな人ができたのか……?)  は……? (いったい誰だ。まさか、初詣に行った神社で会った地元の同級生のうちの誰かか!? あの時、みんなで連絡先交換してたし、数年ぶりに見た佐藤くんに惚れ直した子がいて、LIMEで告白されたりしたのか? 佐藤くんなら、あり得ない話じゃない。だって、かっこ良いから。でも、そんなのーー)  理人さんの思いが途切れる。  ハッと見下ろすと、理人さんは、バスタオルを握りしめたまま一歩後ずさった。  ふたつのアーモンド・アイが、やたらキラキラと輝いている。  え、まさか。 「ま、理人さん?」 「……わかった」 「え、あのっ……」 「お風呂、入ってくる」 「理人さん……!」  ああ、どうしよう。  ものすごくめんどくさいことになってしまった気がする……!
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