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飾り気のない四角い箱の下にタイヤが六輪。塗装もされていない鈍い銀色の試作機はどこを押しても動かない。
予定されていた検査や実験はひととおり終わっている。こいつは立派に役目を果たしたのだ。
死んじゃったなあ。口から出そうになった言葉は、飲み込んで正解だった。
「壊れちゃいましたね」
何気ない部下の一言で我に返る。たかが機械だ。生きてなどいない。当たり前のことだ。
「昨日届いた試作機二号のタイミング、神がかり的ですね。まさか壊れるタイミングが分かってて送ったわけでもないでしょうに」
「うちの研究部の熱意は変態じみてるからなあ」
二号機の梱包を開きながら部下と笑いあう。新しい二号は部下に任せ、動かなくなった一号を空いた箱にそっと詰める。
故郷に帰ったこいつは、どのように扱われるのだろうか。使える部品だけ取り出されて捨てられるのだろうか。
この部署には関わりのないことだ。たかが機械のことなど気にしたところで何の益もない。
箱のふたを閉じて、気持ちも閉じる。閉じ込める。必要なのは結果だけ。そうだろう。
数日後、三号機という名前の一号機が帰還した。一部の部品だけ取り換え、少しだけ改良を加えられたという。
たかが機械を出迎えた部下は、なぜか少し嬉しそうに「おかえり」と言った。アウトプットの結果がそれぞれ少し違っていても、やはり心は同じなのだろう。部下と私も、一号と三号も。
「うちの研究部の熱意は変態じみてるからなあ」
笑う声があまりに上機嫌で我ながら少し面映ゆいが、隠す気にはなれなかった。
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