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『やだなぁ。ウチのお母さんとリョウちゃんのお母さん、筒抜けなんだもん 』
へらっと笑いながらの声に、イラッとした。
『優しそうだったし、こんな私でも好きだって言ってくれたから、いいかなっ……て』
そんなんで、他の男のもんになるんかよ。
「あぁ、そうだな。お前なんかを好きになってくれたんだから、精々その奇特なカレシ、大事にしろよ 」
裏切られた気がして、そんな憎まれ口を叩いた。自分は言わなくても分かっていると、想いを伝えることさえしていなかったくせに。
ギリギリと胸が締め付けられる様に痛む。
「俺達、もう2人で会わねぇ方がいいな 」
『……っ、どうしてそんな事、言うの?』
「ソイツが嫌な気になるだろう? 」
『リョウちゃん、そんなの、私、いや、だよ 』
震える声で泣きそうなことが分かった。ふざけんな、泣きてぇのはこっちの方だ。
「……とにかく、お前。もう俺に連絡してくんな 」
『リョウちゃ……っ』
全部を聞く前に電話を切った。そして鞄に付けていたお守りを引き千切ると、ゴミ箱に投げ捨てた。
スマホを拒否にしていたら、ある日、アイツが家の前で待っていた。話を聞いてと言うアイツに、「迷惑だから、2度と来るな」と怒鳴った。今、思い返せば、子どもかと思う様な態度。だが俺はあの時、ハルカの顔を見るのも、声を聞くのも辛かったのだ。
アイツと話したのはそれが最後だった。
校内の狭い廊下。向こうから唸り声を上げて死人がゆっくりとやってくる。前に伸ばした両腕と濁った瞳。映画やゲームに出て来るゾンビそのものだ。その後ろにもゆらりと影が見えて、俺は手に持つバットのグリップを握り直す。
ハルカの高校に来るのは初めてだ。中がどういう造りになっているのか知らないから、分が悪い。ゴクリと喉が鳴る。
だけど、ここにハルカが居るのは確かなんだ。
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