もう一度、君と手を繋ぎたいんだ

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  「ハルカっ!ハルカ返事しろっ!! お前が呼んだんだろっ!!」  叫びながら、手前のゾンビにバットを振り下ろす。ガコッと音がして、ゾンビの顔が後ろに捩れ、そのまま倒れた。だが、倒れたゾンビは顔だけ向こうを向いたまま、立ち上がる。  俺は少し痺れた手でもう一度バットを振り上げると、ゾンビの頭を砕いた。ピッと、割れた頭から血と中身が飛び散る。  ピクピクと痙攣する死体。  ゾンビでなくても、これで本当の死体になった。そう思った自分にゾッとする。ここに来るまでに、生きているか死んでいるか分からないモノを、何体も倒して来た自分の感覚が既に麻痺していることに気付いたからだ。  だが、ヤラなければ、ヤラれてしまう。  部活中に校庭に入ってきたコイツら。いかにも助けを求めるように差し出された手を取ったキャプテンである先輩は、先ずその手に噛み付かれた。叫び声をあげ、振り解こうとするがそのまま肉を食い千切られる。倒れた所を覆い被され、最初の獲物と見定めた先輩にヤツらは群がった。  悲鳴をあげる彼を助ける暇なんてなかった。いや、それは言い訳だ。誰も、動けなかった。  目の前で繰り広げられる凄惨な光景が現実に起こっていることだと理解出来なかった。  齧られて引き千切れそうな腕を見て茫然とし、『あぁ、あの強肩はもう2度と見ることは出来ないんだな』とぼんやり思うことぐらいしか。  「何やってんだよっ、リョウゴ!! 」  チームメイトのキヨマサに言われて、ハッと我に返った。  「逃げるぞっ! 」  「あっ、ああ…… 」  校舎に向かって走り出そうとした時、背後から視線を感じた。振り返ると先輩が濁った瞳でこちらを見ている。  ヤツらの隙間から見えた、内蔵を屠られ薄くなった腹。あの状態で人が生きている筈はない。しかし、ヤツらに貪られながら、ゆっくりと揺れる手をこちらに伸ばしてくる。  一緒にバッテリーを組んでいた先輩。的確なアドバイスをくれ、人と衝突しがちな俺が監督とぶつかった時も間に入ってくれた。  込み上げてくる何かを堪え、ぎゅっと目を瞑る。一瞬の後、瞳を開くと真っ直ぐに前を見つめた。  ごめんと、心の中で謝る。
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