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「好き……、だって?」
信じられない目で俺を見ると、ハハッと笑う。
「マジかよ。将来プロ入り確実と言われてる付属のオオガミを振って、弱小野球部の永久補欠を選んだって? マネージャーもやるな 」
言いながら、親指を後ろに向ける。
「それならアイツに聞けばいい。ワタセ、お前が部室に置いてきた、付き合ってる『カノジョ』のことでコイツが話を聞きてぇってよ 」
「置いてきた? 」
指の先に視線を向けると、膝を抱えた男子生徒がビクッと肩を大きく揺らした。
俺が近付いても、ソイツは顔を隠したままだ。
「聞きたい事がある 」
「俺、俺はっ、やめようって行ったんだ! それなのに、ハルカちゃんがどうしても取りに戻るって、ついでに俺のスマホも取ってくるってっ! 俺はいらないって言ったのに!!」
興奮して言い訳するソイツを、俺は見定める。
短く刈った髪。作りが小さく、野球選手としては細い線。俺とは全然違う、コイツがハルカの好きになった男。
「俺は別にアンタの事、責めてねぇよ。何があったかだけ教えてくれ 」
俺の声に顔を上げたソイツは、くしゃりと顔を歪ませた。
「ヤツらに捕まらずに、部室までは行ったんだ。だけど校舎に戻ろうとした時、ヤツらが部室の外に沢山……。でも、2人で逃げたら確実にどちらかがヤられてた。俺が引き付けるから隙を見て逃げろって言ったのに、ハルカちゃんはまだ…… 」
思い出して恐怖が蘇ったのか、ぶるぶると震え出す。
「ハルカちゃんとオオガミ君が、知り合いって事は知ってた。でも、君がハルカちゃんを好きだったなんて。ハルカちゃんだって、知ってたら俺なんかと…… 」
「それ以上、言うなよ 」
俺が言葉を遮ると、ソイツの瞳からボロボロと涙が溢れる。
「ハルカはお前が良かったんだよ。アイツは、お前の事、優しいって言ってた。俺は優しくねぇからな 」
ともあれ、ハルカが部室にいる可能性が高いことは分かった。
俺はバッグとバッドを持つと、地窓を塞いでいる机を退ける。
「部室に行くつもり? 」
サキに言われて、コンッとバッドを床に当てた。
「ハルカを迎えに行く。それにこれはもうもたない。これから武器は必要だ。部室にいきゃ、金属バットの1本や2本あんだろ?」
「私も行くわ 」
「足手纏いだ。俺はハルカしか守らない 」
「でもアンタ、場所分らないでしょ? 」
タジマの言う事は最もだった。確かに今は急を要する。ハルカが助けを待っている。
俺はため息を吐いて言った。 「勝手にしろ 」と。
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