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廊下の様子を見て、近くにヤツらがいない事を確かめると外に出る。タジマが俺に続くと直ぐに地窓は閉められた。
廊下の窓から外を伺う。落ち出した夕陽に照らされる校庭。ポツポツとゆっくり動く影が見える。人間の姿は無い。
『付いてきて 』と動作で示され、俺は頷く。リノリウムの床を出来るだけ音を立てずに歩いた。
何処からともなく、ヤツらの声が聞こえる。見つからない様に身を屈め、隠れながら移動する。
逃げた他の生徒はどうしているのだろうか。さっきの生徒達みたいに、閉じられた教室の中に隠れている者も多数いるだろう。
だが、徘徊しているヤツらは殆どがここの学校の制服を着ている。外部から来た者より、学校で襲われてヤツらの仲間になってしまった者が多いという事だ。それに数時間でここまで広まるという事は、どれだけ感染力が高いんだ?
感染経路は詳しくは分らない。けれど、ヤツらに直接傷付けられたら、確実にヤツらになってしまうのはこの目で見た。
移動していると、時折り、どこからかガラスの割れる音や、悲鳴が聞こえる。
突然近い場所で破壊音と叫び声がして、「ひっ……っ!」と声がした。
振り向くと、タジマが震える手で耳を塞いでいる。
「そんなに怖い癖に、なんで来たんだよ 」
教室に残っていれば、まだマシだったのに。
するとタジマが、へらっと笑みを浮かべる。ハルカと似た笑い方に自然と眉が寄った。
「オオガミは、強いね 」
「強くない。俺だって怖い 」
「嘘だぁ。アタシ覚えてるよ。県大会の決勝、9回裏、1点サヨナラの状況でも冷静に三振で仕留めたの 」
腕を取られて、胸の中に黒い靄が広がっていく。
「本当はずっと、憧れてたんだ。オオガミ リョウゴに」
ヤツらの声が聞こえた。しがみ付く手の力が強くなる。
「ハルカ、全然会わせてくれないんだもん 」
俺は「少し静かにしろよ 」と言って、腕を振り払った。感じている違和感は、何故か正解の気がしていた。
昇降口の様子を見るとヤツらの姿が多いため、渡り廊下から外に出ることにする。
数体に見つかるが、ヤツらは動きが遅いから追い付かれずに部室棟まで来ることが出来た。
タジマに教えられた通り、1階の1番端の部屋を目指す。
少しだけ開いたドアに、嫌な気しかしない。
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