1人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
これには咲耶の祖父である甲賀の里の里長の岩爺も驚くばかりだった。
幼い頃から、咲耶に忍術を教えていた師匠のコンガも「もう教えることはない!」と、免許皆伝を許すのであった。
二人共、甲賀の里は安泰であると信じてやまなかった。
心技体、咲耶は全てが完璧であると思われた。しかし、心の教授はされなかった。
厳しい修行の毎日は心が乾く日照りも同然、そんな中に降り注いだ娯楽は旱天の慈雨そのもの。咲耶の心を潤いに満たすのであった。
甲賀の里にやっとのことで敷かれたネット回線はパンドラの箱、咲耶はネット動画で見たインフルエンサーにすっかり心奪われてしまい「あたしもインフルエンサーになりたい!」と考えるようになった。
当然、岩爺は大激怒。普段は目に入れても痛くない程に可愛がってはいるが、咲耶は甲賀忍者の希望。インフルエンザだかインフルエンサーだか何だか知らんが、そんなものになることは許さんと怒髪天を衝くのであった。
甲賀の里全てに轟く程の雷を落とされた咲耶であったが、インフルエンサーになりたいと言う憧れを止めることは出来なかった。
思い立ったが疾風迅雷! 咲耶はその日のうちに旅支度を風呂敷包みに纏め、「わたし、忍者やめてインフルエンサーになります」と書き置きを残し、甲賀の里から逐電してしまった。
さて、忍者には鉄の掟がある。里は今でも時の権力者より指令を受ける立場にあり、明暗問わずに「知られたくない情報」の塊である。
それが外に漏れることがあれば信用問題。時の権力者の身の破滅、何よりも里の崩壊の危険性すらも孕んでいる。
その守護のために「抜け忍」、つまり里を抜けることを大罪とし、里の者での抹殺が定められているのであった。
最初のコメントを投稿しよう!