何もない私と何かある彼女

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「へ?」  何を言われたのか分からず、思わず間抜けな声が出た。  言い聞かせるように、華ちゃんはゆっくりと説明する。 「元は私の兄貴の店なの。結婚して、奥さんの家業を継ぐことになったから、お前が代わりにやれって任されただけ。私、高校中退して、ずっとフリーターでフラフラ生きてたからさ」  何も言えずに目を瞬かせる私を見て、華ちゃんはちょっと気まずそうな顔をした。 「だから、あのバルの内装とかメニューとか、考えて形にしたのは全部兄貴。私は言われたことをしているだけ。本当は、私には何もないんだよ」  でも、と彼女は私の瞳を見つめる。 「美香ちゃんには何かあるでしょ。あのショップの服が好きって、ここで働きたいって気持ちが。だから、大丈夫」 「……そうかな」  ぽつりと零した疑問を優しく包むように、華ちゃんが腕を伸ばして、そっと私の手を取った。 「大丈夫! テキトーに店やってる私でも何とかなるんだから。美香ちゃんなら、どうなったってキラキラ働けるよ!」 「華ちゃん……」  私は自分の手に重ねられた、華ちゃんの厚みのある手を見つめた。  短く切り揃えられた爪。暑い時期でもあかぎれだらけで、火傷の跡や切り傷もたくさん付いている。  ひとりで飲食店を切り盛りする人の手だった。  実直な働きぶりが伝わる手からは、彼女が言うようなテキトーさは微塵も感じられない。
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