何もない私と何かある彼女

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 大人になった私は知っている。  幸せな時間はいつまでも続かない。  ひとり暮らしの自分の部屋で、気怠く目を覚ます。スマホで時刻を確認すると、午前十一時。  仕事は休みの日。今日の予定はないけれど、掃除は必須だよね……。  散らかったワンルームを見渡して、私はため息を吐いた。  取りあえず、寝起きの習慣であるSNSチェックを。 「え……」  すると、職場の同期の投稿が目に入って、私の胸がチクリと痛んだ。  それは決意表明だった。  本社管理部で働く彼女は、広報部に異動して、花形職のプレスとして活躍したいそうだ。  異動願いを出したこと。今日は午前から広報関係のセミナーに参加していることを、テンション高く投稿している。 『必ず夢を叶えます!!』  その熱量に胃もたれしそうになって、私はSNSのアプリを閉じた。 「夢、だってさ」  私は今困っている。  私に夢なんてない。  強いて言えば、「今の生活がずっと続いてほしい」というのが私の夢だ。  お店で大好きな服を楽しく売って、仕事終わりは大好きな華ちゃんのバルで楽しく過ごす。  それ以外に幸せなことなんてある?  だけど、周りはそれを許してくれないみたい。  大卒で正社員としてアパレル業界で働いて、今年で四年目。  これからのキャリアプランとやらを考えなくてはならない時期なのだ。
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