何もない私と何かある彼女

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 それなのに私は、上を目指したくない。  接客は好きだけど、店長になって巨大な責任を負いたくない。  店舗管理や人材育成、商品開発のポジションにも興味がない。  要は、向上心がないのだ。自分らしさというか、個性もない。  でも、それじゃダメなのかな? 毎日きちんと働いてるだけでえらくない?  今の正社員の職を捨てて、契約社員としてずっと接客の仕事をするっていう手もあるけど、お給料下がっちゃうし……。 「あああああ、ストップ、やめやめ」  思考が後ろを向いていくばかりなので、私は声を発して頭の中の悩みを打ち消した。 「こういう時は、好きな人を見るに限る、と」  私はメッセージアプリを起動させると、華ちゃんのアカウントを表示させた。  背景画像に設定されているのは、底抜けに明るい笑顔の華ちゃんの写真。  素敵だなぁ、華ちゃん。  これからもずっと変わらずに、自分の「好き」が詰まったお店で働けるんだよね。異動や転勤もないし。  でも、私は別に、独立してお店持ちたいわけじゃないんだよな……。  何だか無性に、華ちゃんに会いたくなった。  今の悩みを全部打ち明けて、彼女に「会社のことはよく分かんないけど、まあ大丈夫っしょ!」って、根拠のない励ましをしてほしかった。
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