何もない私と何かある彼女

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 華ちゃんとは仲が良いけれど、あくまで彼女のバルで客として会うだけの関係だった。  だから、お互い休みの日に会うなんて初めてのことで、ものすごく嬉しい。  華ちゃんの自宅がある駅で降りるのは初めてだ。彼女の店の最寄り駅からは、電車で十分くらい。  終電に乗れないから、自転車通勤してるって聞いてたけど、結構な距離だよね……。  駅を出て、近くにあるスーパーを目指す。華ちゃんが暮らすのは、何の変哲もない住宅街だった。私が住む地域と大差なく見える。  よくある古びた大型スーパーの入り口で、 「美香ちゃ〜ん!」  昨日同様、大声で私の名を呼ぶ、くっきりと明るい女の子。 「華ちゃん、こんにちは〜」 「あはは、ホントに来た」  からかうようなその言葉に、やっぱりあれは冗談だったの? と不安になる。 「ごめん、急に来て迷惑だった?」  恐る恐る謝ると、 「何で? 全然だよ。いや、いつもお洒落な美香ちゃんが、こんな普通のスーパーに来て楽しいのかなって思っただけ」 「えっ、別に……。華ちゃんに会えるから、楽しいよ」  すると、華ちゃんはニマーッと表情を崩した。 「やだ〜、この子可愛い〜! ご褒美にこれをあげましょう」  そう言って、ショートパンツのポケットから何かを取り出して私の手のひらに乗せた。  透明なプラスチックで作られた、ダイヤモンドの形をしたおもちゃ。ピンクや黄色、水色など、様々な色が五個、キラキラと輝いている。 「さっき、ゲームコーナーのクレーンゲームで取った」  さらっと説明する華ちゃん。  一人でクレーンゲームに挑戦する彼女を想像する。周りから浮いてそうだけど、何だか華ちゃんらしかった。  好きな人から貰ったってだけで、子ども向けのプラスチックのおもちゃが、素敵な宝物のように見える。  会いに来て良かったなって、この時点で既に思っていた。
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