タマラ・ド・レンピッカ

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 あなたに会いたい。あなたの助手席に乗りたいという気持ちはもう抑えられない。  私の頭は狂っている。自覚している。絵画の中に入りたいと本気で思うことはまともではない。  タマラ・ド・レンピッカ。彼女の車に乗っている自画像は、私の胸を締め付ける。日常ではみたことが無い緑色。三白眼で私を見つめるその表情は有無を言わさず引き込む力がある。どうしてもそこに入りたい。あなたの助手席で死にたい。  私の部屋には同じ絵が四枚飾られている。四方の壁に一枚づつ。どこを向いても見えるように。  明日の新聞には「絵画の中で服毒自殺」と書かれるのだろうか。 石膏で作ったブガッディに色を塗り、運転席に彼女の絵を切り抜き。助手席で彼女と同じ銀色のマフラーとヘルメットを被って息絶えている私。  想像するだけで全身に鳥肌が立つ。私はタマラの側に行く。
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