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自室のベッドに坐り、私は考え込んだ。
祖母はいつも、四時には夕飯の支度をはじめていた。日が暮れてもまだ帰ってこないだなんて、明らかにおかしい。ここはやっぱり、現実の世界ではなかったんだ。
だけど、夢にしては生々しすぎる。ほっぺをつねると痛いし、チョコの味もしっかりと感じられる。
枕に立てかけたちぎり絵と睨み合っていると、声が聞こえた。
「確かにここは、現実ではない」
辺りを見回して、私は悲鳴を上げた。部屋の隅に、見知らぬ女の子が立っていたのだ。
見た目は小学四年生くらい。髪にはレースの白いリボンをつけていて、ちょっとレトロなワンピースを着ている。一度も会ったことがないはずなのに、どこかで見たことがあるような気がした。
「誰? ここが現実じゃないって、どうして知ってるの?」
戸惑いながらも、私は訊ねた。後ろで手を組み、彼女が答える。
「ぼくは遠い星からやってきた、寄生生物だよ。そしてここは、きみの記憶の中だ」
見た目に不釣合な、きっぱりとした口調だった。意味が分らなくて、私は混乱した。
「遠い星から……って、宇宙人ってこと? 寄生生物にしては、随分可愛い見た目だけど」
「これは本当の姿ではない。きみの記憶が作り出した、仮の姿だ」
リボンを揺らし、ベッドの端にぽすんと腰掛ける。足を組んで、彼女は語り出した。
「本当のぼくは、地球人の目には見えないほど小さい。きみは夕辺、夜更かしして寝落ちしただろ。だらしなく口を開けて眠っていたから、ちょっとお邪魔して、脳に入り込んだのさ」
夜空を見上げて、彼女は続けた。
「ぼくらの遠いご先祖さまは、今の地球人のような見た目で、立派な文明を築いていたらしい。だが、機械に頼りすぎて体が退化し、ほとんど脳だけになってしまった。今ではいろいろな星を渡り歩いて、ほかの生き物に取り憑くことで生きながらえている。そして時々、自らの知識欲を満たすために、その生き物の記憶を覗いているのだ」
「私の記憶も覗いたの?」
彼女は、ちょっと申し訳なさそうに頷いた。
「ぼくらに取り憑かれた生き物は、記憶を覗いているあいだ、まるで過去に戻ったかのように感じるようだね。痛みや味も、記憶の通りに再現されるから」
彼女の横顔を眺めていて、私はハッとした。数年前、祖母の幼いころの写真を見せてもらったことがあった。彼女はその姿にそっくりだと、今さら気付いたのだった。
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