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「――話は以上だ。取り憑いた時間が短かったから、体に害はほとんど残らないだろう」
「ちょ、ちょっと待って!」
立ち去ろうとする彼女を、私は慌てて引きとめた。
「私、この世界でおばあちゃんに会おうとしたんだけど、会えなかったの。姿を忘れたわけじゃないのに、どうして? 私の体から出ていく前に、一度でいいから会わせてよ」
「それは無理だ」
彼女は、枕に立てかけたままのちぎり絵を指差した。
「きみはあの、ちぎり絵とやらの描き方を教えてもらいたかったのだろう。だから会えないのだ。経験したことがないのだから、記憶にもなくて当然だ」
その通りだった。
祖母がまだ元気だったころ。せっかくだからちぎり絵を教えてもらったらどうかと、母に提案されたのだ。私もそのつもりでいた。だけど、面倒くさがりな私は後回しにしてしまって、実際に教えてもらう前に、祖母は亡くなってしまったのだ。
私はそのことを、ずっと悔やんでいた。
ベッドに坐ったまま俯いてしまった私に、彼女が声をかける。
「描き方を教わらないのであれば、きみの記憶を引き出して、今すぐにでも会わせてやることはできる。しかし、それが何になる? 今はもっと、他にすべきことがあるのではないか」
「すべきこと……?」
顔を上げた私に、彼女はしれっと言った。
「どうして、できなかったことばかりに目を向けるのだ。もたもたしていたら、両親もきみも死んでしまう。また後悔したいのか?」
彼女は窓を開けた。白いリボンがゆらゆらと風になびく。振り返って、私に微笑みかけた。
「ぼくはこれから、また別の星へ行くことにするよ。さようなら」
「お、おばあちゃ……へっくしゅん!」
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