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自分のくしゃみで目が覚めた。
朝日が顔を覗かせていた。ベッドの隅にスマホが転がっている。寝ぼけ眼であたりを見回すと、白い光の粒が、空中を漂って窓の隙間から逃げてゆくところだった。
「……そうだ、おばあちゃん」
飛び起きて、壁に駈け寄った。飾ってあった祖母のちぎり絵を手に取る。
私はそれをぎゅっと抱きしめた。
どきどきしながら階段を降りる。現実の世界に戻ってきたはずだけど、万が一にも、まだ記憶の中だったらどうしよう。
リビングでは、母がせわしなく動いていた。
「ねえ、お母さん。ここって、記憶の中じゃないよね」
おそるおそる訊ねる。母は首をかしげた。
「何、寝ぼけたこと言ってるの。早くしないと、会社遅刻しちゃうよ」
私は胸を撫で下ろした。そして、あることを思い出す。
「お母さん。今度の連休、おばあちゃんの実家に行こうよ。『いつか行こう』って、前に話してたよね」
「別にいいけど……どうしたの? 急に」
手を止め、母が笑う。笑い返して、私は答えた。
「だって、もう後悔したくないんだもん」
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