風が吹いたとき

1/1
前へ
/1ページ
次へ
「あなたに会いたい」    学生時代、後に妻となる女性にそう言われるたびに私は舞い上がった。  大学を卒業後、私たちは結婚して、力を合わせて夢を追いかけた。  毎日が充実していて、幸せな日々を過ごした。  語り合い、アイディアは尽きることなく、時に喧嘩をしながらも、私たちは次々と発明品を世に送り出した。  天才発明家夫婦として有名人になった私たちは希望に満ち溢れていた。 「あなたに会いたい。話があるの。早く帰ってきて」  妻にそう言われるたびに、私は怯えた。  なぜならば、そういう場合、妻に内緒にしていた都合の悪い秘密がバレてしまって叱られるパターンが100パーセントだったからだ。  妻は怒ると怖いが、知的で、器が大きかった。私は妻を心から愛していた。  発明品を作る以外は何もしない私の、どこに魅力を感じたのだろうか?  よく何十年も一緒にいてくれたものだ。  でも、妻が私より先に亡くなるとは思わなかった…。 「あなたに会いたい」  私は、昨年亡くなった妻の墓の前で呟き、妻の死後に着手した『人を生き返らせる装置』を完成させる見込みがあることを報告した。 「でも、たった今、中止にしたんだ。ふと、君が生きていたら絶対に怒るだろう、と思ってな。……なあ、もう少しだけ待っていてくれよ。時が来たら、会いに行くから」  気がつけば、涙を流していた。  爽やかな風が吹き、私はため息混じりに笑って、空を見上げた。        
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加