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発見
巧は高校卒業の資格を取っても、まだ家から出ることはできなかったが、通販でトレーニング器具を買い込み、家で体を鍛え始めた。
元々、父親は背が高く、巧は少し伸び始めるのが遅かったようだが、20歳ころには父親を越える185cmの高身長になった。
トレーニングの成果も徐々に表れ、均整の取れた美しい体型になった。
顔も、目つきがしっかりとしてきて、もう、あのいじめられていた巧だと、一目見て気づくものがいない程変わった。
巧は、トレーニングの他に、元々得意だったPCを使ってあらゆる検索をかけ、美恵子の引っ越し先を突き止めていた。
『一人暮らしをして、仕事をしたい。』
親にそう言って、家を出ることを告げると、両親は驚いたが、ようやく前を向いてくれたんだな。と、喜んで背中を押してくれた。
もちろん、巧の引っ越し先は美恵子のいる場所だ。
美恵子は最初は勿論実家にいたが、高校中退のまま実家からは早々に追い出され、実家近くの繁華街で夜の仕事をするようになっていた。
美貌は持っているのだから、当然と言えば当然だが、結構な売れっ子になり、いい稼ぎをして、鼻が高いのは相変わらずだった。
美恵子の近所にいって様子を探っていると美恵子は稼いだお金でホストクラブにはまっている様子だった。
巧は美恵子の通っているホストクラブに入り込んだ。
最初は目立たないように、ホストクラブでの美恵子の遊び方を見ていた。
相変わらず品がない。ホストを自分の子分の様にはべらせ、上から物を言う。
まぁ、ホストクラブなのでそれはそれで良いのだが、このホストクラブの他の客は品よく遊んで、お金を沢山落としてくれる客層が多かった。
当然、ホストクラブでの美恵子の評判はあまりよくはなかった。
ただ、お金は落としてくれるので、皆仕事と割り切って、美恵子の相手をしていた。
巧はホストクラブに入ったその日から周囲のホストとの関係をよくするよう、裏方の仕事などを率先して行い、店の片付けも自分の番でなくても自ら申し出てやっていた。
巧は段々とホストクラブでのランクも上がって行って、美恵子の目にも止まるようになってきた。
美恵子から初めて指名が来た日、この日を運命の日と決めていた巧は周りのホスト達に打ち合わせておいた通り、目で合図を送った。
「いらっしゃいませ。本日はご指名有難うございます。」
「ふふっ。あなたいい体してるわねぇ。背も高いし、格好いいわ。」
酔ってもいないのに、いきなり、巧の胸を触ってきた。
『相変わらず下品な女だ‼』
巧はつい顔に出そうになったが、そこはぐっとこらえた。
そして、初めて指名してもらったお礼にと、店で一番高いボトルを美恵子のためにと、入れてやった。
美恵子は、元々のその自惚れから、巧が自分にぞっこんなのだと思い
「あらぁ、私の事、ずっと気になっていたのかしら?かわいいわね。」
と、軽口をたたく。そして、ぐいぐいと酒を呑んだ。
『今夜のうちにその軽口もたたけないようにしてやるぜ。』
巧は商売用の笑顔を美恵子に向けながら
「本当にお綺麗ですね。高校の時と変わらず。」
美恵子は一瞬驚いた。高校とは縁のないところに来たつもりでいるのだから当然だ。高校時の退学は美恵子には屈辱でしかなかった。美恵子が直接手を下したわけでもないのに、退学にされたことを恨みにさえ思っていたのだ。
「なによ、ちょっと、あなた何で高校の時の事なんて言うの?気分悪いわ!」
いつもまにか、美恵子の座ったテーブルは他のお客様からよく見える真ん中の少し高いテーブルだった。
そして、その店のホストは、その日に着いたお客様に面白いものが見られるから。と、言い聞かせ、全員が美恵子のテーブルの周りに集まっていた。
「まだわからないかな。高校の時にあんたにいじめられた巧だよ。今日の日を楽しみに待っていたんだ。」
ホスト達はその言葉を合図に美恵子の手足を押さえつけ、その日に着てきたものを破り捨て始めた。
「ひょっほう~!いつものすました顔はどうしたんだ~?」
そんな風にいつもの高飛車な美恵子を面白く思っていなかったホストが叫ぶ場面もあった。
一糸まとわぬ姿にされた美恵子は皆より高い一段高いガラスのテーブルの上にうつ伏せに抑えつけられた。
下から見上げる、他の客から美恵子のガラスのテーブルに潰された胸や腹がよく見える。そこだけライトアップしたのだから尚更だ。
他のテーブルの女性客も、いつも下品に大声で店を牛耳っているような美恵子をよく知っていたので、この日のことは面白く見物していた。
美恵子は泣いて、泣いて、化粧も崩れて酷い有様だった。
巧が手を放すように合図をしたが、美恵子の服はもう、残ってはいない。
「さて、裸で帰るか?でも警察に捕まっちゃうとまずいからとりあえずこれかしてやるよ。」
巧は大きなテーブルのクロスを美恵子に渡し、
「またのお越しをお待ちしております。」
と、言って、店から追い出した。
その日、巧が帰宅の為、ホストクラブを出たとき、腹に衝撃が走った。
ぶつかってきたのはテーブルクロスを撒いた美恵子だった。
「泣き虫巧に負けるわけないっしょ。」
美恵子はホストクラブを出る時に果物ナイフを持ち出していたのだ。
やられたまま泣いて帰るような美恵子ではなかった。
美恵子もまた家を引っ越さなければいけなくなった事で巧を恨んでいたのだった。
二人の再開は、結局巧の負けで終わった。
果物ナイフだったので、巧は重傷ではなかったが、その日の出来事がホストクラブのオーナーにばれてあっけなく首になった。
次に二人が再開するときに何が起こるかは二人のこれからの人生による。
だが、できれば二人共、前を向いて、昔の事を忘れて生きて行ってほしいものだ。
そして、次に出会った時には、笑いあえるくらい大人になっているかどうかは・・・・誰にもわからない。
【了】
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