いのちを置いてるとこ

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 歩いてる松葉杖から回復するのは簡単だった。そのくらいに日々は順調に進んでいる。彼にもう悩みなんてないみたい。  通院も既に必要ないくらいになっていた。でも、それは元々だってそうだった。けど、ちょっと昔よりは明るくなっている。  次の問題は進学。彼は大学に進む目標を持って勉強を重ね。医療系の大学を受けるつもり。それは自分の問題と、そこに病院で会ったけど、もう随分と会ってない車いすの彼女がエッセンスとしてあったから選んだ道。難しくはない。有名国立大学でも狙える。彼の頑張りはその価値があるのだから。そしてこれからの自信にもなるだろう。 「落ちても構わないんだからね」  受験生の母親の言葉とは思えないけど、第一志望はそのくらいに難関でもある。 「出来るだけ頑張るよ。私立になったらゴメン」 「気にしないで、どうせだったらあの病院系の大学なら家から通えるんだし、私はそのほうが安心だよ」  どうも母親は自殺を繰り返すことを心配している部分もある。当然でもあるだろう。家族が居ないで発見出来なくて死んでしまったら経歴なんてなんの意味もないのだから。  国立大学の試験を順調にこなして、他の大学の試験に移る。地元の良く知っている病院の系列の私立の入試は非常に簡単に思えた。これまでの身を削るような勉強は必要ないくらいに。  その時、彼はちょっと懐かしくなった姿を見つける。車いすは無いけど、肩までの髪がなびいたときに見える笑顔が遠くなった記憶を呼び起こす。もう怪我なんて昔のことになった彼の足はその人を追いかける。 「ちょっと待って!」  遠く友達と話しながら歩いている人に向けて声を掛けるけど、聞こえてなくて角を曲がる。  彼だって追いかけて懐かしい人の姿を探した。  だけど、試験があって、在校生もいる会場には人が多くて紛れ込んで姿が見つけられなくなる。 「違ったのかもしれないから」  深いため息を吐きながらも眺めその人ならこれえからまた会える気がしても焦らない。奇跡みたいなことがあるかなんてわからないから。彼はも一度振り返り彼女の姿を探して、それでもわからないので自分の試験会場に戻った。  全ての試験が終わる。残るは結果を待つだけ。安心している様な不安が募る様な日々。苦しくなったり、ふと駄目だったらそれでもどうにかなると納得する時間が続いた。  段々と受験結果が届く。彼は優秀。基本的に合格の知らせばかりになるけど、本命の結果はまだだった。因みにこの街の私学は一番に合格していた。 「思い詰めないで私立に進んでも良いんだからね。私はそれが安心だし」  思いやりだけではない母親の言葉に「そうだな。あの大学も悪くない」と彼も思っていた。  それは卒業すれば系列病院で働くのが容易なメリットもあるから。  ちょっとした夢でもあるのだから。
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