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「玄瑞っ!!」
今度もスパーンと障子が開いて、吉田が出てきた。
「なんで、なんで紅葉が沖田の恋仲になってるわけ!!」
吉田の美しい顔は乱れ、艷やかな一つに結ばれていたはずの黒髪は下ろされ、目は赤く腫れ、頬には涙の跡があった。
玄瑞はぎょっとした顔をして、九一は無表情だった。二人共吉田が含み笑いしているか、無表情以外見たことがなかったからである。
「・・・。」
黙る玄瑞。黙秘を決めた彼は書類に向き合った。
「ねえ?九一は知ってたわけ?なんで!」
それは悲痛の声であり、傷ついた時の叫びだった。
「・・・。」
九一も黙っていた。ここで何かを言えば余計に吉田を傷つける。もちろん黙ってしまったところで吉田が傷つくのを防ぐわけではない。九一自身も何を言えないいのか、皆目検討もつかなかった。
「玄瑞はともかく九一は知ってたんだよね?なんで僕に伝えなかった?!」
九一の方を掴み、揺さ振る吉田。それでも九一は何も言わず、ただ下を向くばかりだった。一瞬謝罪の言葉も浮かんだ。が、それを言ったところでこの状況は変わらない。今回は誰も悪くない。ここに悪人はいない。ただそれぞれが自らのやるべきことの為に、世の掟に従ってきただけに起きてしまった悲劇。
俯いている九一にしびれを切らしたのか、行き場のない怒りをぶつけるかのように吉田は、
パンッ
と、頬に平手打ちをした。
その瞬間、玄瑞がパッと立ち上がった。
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