長い逢瀬

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「お父さん、違うって! 携帯の写真見る時は、このボタン。右よ、右」 「そう言われてもなぁ……機械ってのは進化し過ぎなんだよ。右、右……おまえの彼氏、これか?」 「そう。男前でしょ?」 「ほー……確かに」  携帯に映し出された写真には背が高く、いかにも聡明そうな顔立ちの男が映し出されていた。スポーツマン、と言った感じの印象を受ける。 「彼、広告代理店に勤めてるの。すごいでしょ?」 「なんだ、チラシでも配ってんのか? そいつ大丈夫か?」 「違うよ! そんなショボイ仕事してないよ」 「名前は何て言うんだ?」 「織島勇人くん。名前もイケメンでしょ?」 「織島?」 ※※※※※※※  二人の婚約報告の後、両家の親同士の顔合わせが行われる事になった。  七月七日。  街中の料亭で、普段着慣れないスーツに身を包んだ勝は緊張のあまり額に汗を浮かべ、石のように固い表情を浮かべていた。 「なんで送り出す方がガチガチになってんのよ? もっと堂々としてなさいよ……」 「こういうのは、どういう顔をしてたらいいもんだか……なぁ?」 「なぁって、あなた父親でしょ? 何弱気になってんのよ」  妻に小言を言われながらも、勝は呼吸を整えて天井を見上げた。  若い頃、自分が同じような状況で人様の人生を狂わせてしまった苦い思い出が、ふつふつと胸に蘇って来る。  まさか自分が見送る側になる日が来ようとは、夢にも思っていなかった。蘇って来る思い出を前に、その頃夢に見ていた未来がどんな景色だったかも、老いた今ではもう思い出せなくなりつつあった。
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