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仕方ないから、今日も君の手を握る
彼女を見ているといつも思う。
人間って、恐怖でこんなにもわかりやすく震えることができるものなのか、と。
「……おい、大丈夫か?」
隣に立っている少女――花梨に、僕は声をかけた。すると、僕より頭半分くらい長身の彼女は、油の切れたブリキ人形のようなぎこちない動きでこちらを見る。
「ら、らららいひょうふ!わわわわだじは、ぜんぜん、ふぇーきだからな!ち、ちちち、ちっともこわふゅなんか、にゃい!」
「……ものすごく怖いんだな、わかった。無理しなくてもいいぞ。やめるか?」
「ややややややめにゃい!しょ、しょれじゃ、意味ないんにゃからっ!」
「…………」
なんでそんなに頑張りたいのかわからない。というのも、自分達は今人生の危機に直面しているわけでもなければ、絶対に乗り越えなければいけない最大の試練を前にしているというわけでもないからだ。
僕と花梨が並んでいるのは、遊園地にあるジェットコースターの列である。このフジノミヤハイパークは、ジェットコースターの数が豊富なことで有名だ。僕達の家からも近い上、同県民は割引も使えるので高校生も行きやすいのである。
ゆえに、僕と花梨が此処にいること自体はおかしなことではないし、特に県民の日なんかになるとフジノミヤハイパークが遊びに来た高校生でいっぱいになるのは有名な話なのだが。
問題は、花梨がものすごく、それはもうものすごく怖がりだということ。
ジェットコースターも怖いし、お化け屋敷も怖い。どっちもベクトルの違う怖さがあってきっつい!とは本人の言。ゆえに、遊園地に来ても楽しめるものがどうしても少ないのだと言っていた。
それならそれで別にいいじゃん、と僕は思う。他にも乗り物はあるし、遊ぶ場所は遊園地だけではないのだから。それなのに。
「わ、わらひは、絶対、克服するんにゃから!」
噛みながら、超絶震えながら、彼女は告げるのだ。
「じぇ、じぇ、ジェットコースター克服しひぇ!つ、強い女に、なるんらからああああああああああ!」
そう。
今日、僕が花梨に付き合ってこの遊園地にいるのはそういうこと。というか、既にこれで五回目である。
花梨は何故か急に、ジェットコースターとお化け屋敷を楽しめるようになりたいと思い立ったらしい。一人じゃ心配だから自分に付き合ってくれと言ってきたのだ。
――別に、無理しなくてもいいのに。
わけがわからん。
僕は首を傾げるしかないのだった。
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