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第5章 1月22日 その2
「美紅さん、聞いた?」
暮地修は二人が帰るとどうしても高まる気持ちを抑えられなくなって、それで従姉の美紅に電話を掛けてしまった。
「聞いたって何を?」
「今ね、探偵がうちに来たんだ」
「探偵?」
「うん」
「どうして?」
「響子大叔母さんのことだよ」
「響子大叔母さんのこと?」
「うん」
「なんで探偵が大叔母さんのことを調べてるの?」
「調べてるんじゃなくて、響子大叔母さんから遺言を預かっていたらしいんだよ」
「響子大叔母さんが探偵に遺言を?」
「うん。そのへんの事情はわからないけど、それでね、その遺産が僕にも入るらしいんだよ」
「修君に?」
「うん。本当は父に入る遺産だったらしいんだけど、父はもう死んじゃってるしね」
「するとそれってまさか母にも?」
「僕に入るのは三分の一、後は美紅さんのお母さんと伯父さんに三分の一ずつ分けられるんだって。伯父さんの名前、なんて言ったっけ?」
「正夫伯父さん?」
「そうそう。その3人に大叔母さんの遺産が分けられるらしいんだ」
「そうなんだ。伯父さんと母にね」
その時美紅の声が曇った感じがした。
「あ、ごめんね。美紅さんには遺産が行かないのにこんな話をして」
「ううん、別に構わないのよ」
「遺産が入ったら美紅さんには何か素適なものを買ってあげるからさ」
「ありがとう。でも修君は早く彼女を見つけて、その人にプレゼントをしたらどう?」
「またその話か」
「だって修君もそろそろ40でしょ?」
「まだ35だけど」
暮地修はその電話を切った後、やっぱり美紅には掛けなければ良かったと思った。しかし、それでも大金が入るという興奮だけはそのまま続いていた。そしてその暮地修の興奮がさめやらぬその夜、相続人の一人だった暮地正夫が行方不明になった。
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