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古の夢のありかで
黒で彩られた居城
壁に点々と掲げられた燈と、玉座の間に設られたトールトーチの明かりの下には、紫色に濁った血液が足元を濡らす
腕を庇いながら治療を受けている斥候と、傷を癒している聖女
私のすぐ隣に立っている竜人の男
そして、玉座ごと貫くように剣を異形へと突き刺す少年の赤い髪が、薄暗い明かりの中でわずかな光を反射していた
ずるりと抜かれた剣に引きずられるように崩れ落ちた異形
口から呪詛のような呻き声を垂らして、形を保てずにさらさらと砂のように空に消えようとしている
カーペットも敷かれていない硬質な床の上では、止まることのない血で血溜まりできていた
その上をバシャバシャと飛沫を上げながら歩いて、消えゆく異形の前に立った時
滅びを迎えようとしているそれを目にして渦巻いていた感情は、復讐を成した達成感でも消えることのない憎しみでも無い
こんなにもあっけなく消えてしまうものなのかという小さな感情だった
息の整った少年が私たちの方に向き直った時、目には破壊の限りを尽くした化け物を倒したという歓喜に満ちた感情が乗っているというのに
私にはそれすらもない、心にずっと抱いていた憎しみも終わってしまった
小さな感情などすぐに消えてしまう
後に残ったのは、全てを奪われ残骸となったただ1人の男だけだった
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